アントワーヌ・グリーズマンはタレントの宝庫、スビエタ(レアル・ソシエダのカンテラの組織の総称)が輩出した最高のタレントの1人だ。いまだに謎なのが、彼が愛したオリンピック・リヨンの上層部が、どうしてこれほどの才能を見抜けなかったということだ。
身長が低いため入団が認められなかったという話は有名だが、しかしグリーズマンは仮にフィジカルのハンデを抱えていたとしても、その不足分を補って余りある数々の長所を有している。リヨンが直接その脅威に晒されたのが、2013−14シーズンのチャンピオンズリーグのプレーオフだ。グリーズマンはその第1レグで、左足のオーバーヘッドキックで鮮やかにネットを揺らした。
グリーズマンはその翌シーズン、アトレティコに移籍した後もラ・レアル愛を貫いている。ソシエダのライバルであるアスレティック・ビルバオと対峙するときは、いつも以上にモチベーションを高めてプレーするのもその表れだ。
ファンの間で語り草となっているのは、その宿敵相手にハットトリックを達成した2年後の2016−17シーズンに敵地サン・マメスで挙げたゴールとその後のシーンだ。1−2の1点ビハインドで迎えた80分、ボックス手前から強烈なミドルシュートを叩き込むと、グリーズマンはカメラに向かってフランス語で「ここは僕の家だ」と叫んだ。
先週日曜日に、同じ雄叫びをあげる機会があったのがタケ・クボ(久保建英)だ。自分の庭となるはずだったサンティアゴ・ベルナベウを訪れ、傑出したパフォーマンスを披露。しかし、チームを勝利に導くまでには至らなかった。くしくもタケは、今シーズンの抱負について次のように述べている。
「昨シーズン同様に重要なピースになること。そのうえでチームが僕の力を必要としている場面で貢献できる選手になりたい」
グリーズマン同様、タケも身長が低い。10代の頃はサイズのなさを問題視されたことがあったかもしれない。レアル・マドリーの上層部も、たらい回しにした後、昨夏にラ・レアルに放出した際には、「これが最後の賭け」という半ば諦めの境地もあったはずだ。
その危機感については、まだ若いにもかかわらず、タケ本人も口にしていた。しかしタケは、ラ・レアルのアイドルになった。グリーズマンとの共通点はそれだけではない。モチベーションを刺激される試合では、いつも以上に闘志を燃やして、ある意味、極悪非道なプレーを見せる勝者のメンタリティもその1つだ。
古巣との対戦となったマドリー戦もとりわけ前半はタケが構える右サイドにボールが渡るたびに、ラ・レアルの攻撃は危険な香りを漂わせた。ブライス・メンデスのパスが右サイドに開いていたタケに通った開始5分の先制点の場面もそうだった。タケはカットインから左足で低い弾道のクロスボールを供給。アンデル・バレネチェアのゴールをお膳立てした。
さらにその6分後、今度はミケル・オジャルサバルのパスを右サイドで受けると、カットインから切り返してトニ・クロースをかわし、弾丸シュートをファーサイドのサイドネットに突き刺した。しかしボールはオフサイドポジションにいたオジャルサバルの背中をかすめてネットを揺らしており、ゴールは認められなかった。パスを出した後、相手DFを引き付けるためにペナルティエリア内に侵入していたことが仇となった格好だ。
さらに圧巻だったのは29分のシーンだ。起点となったのは、トラップしてそのまま前にボールを弾いて、クロースを置き去りにしたワンタッチコントロールだ。タケはそのままか加速してドリブルで突進。鋭い切り返しでフラン・ガルシアをかわして放ったシュートは惜しくもマドリーのGK、ケパ・アリサバラガに阻まれたが、マラドーナ級のプレーだった。
【動画】「マラドーナ級」と番記者が絶賛!久保の神トラップ→独走ドリブル
もうこうなると、タケをケアしていたフラン・ガルシアとクロースは震え上がっていた。またしてもケパの好守に阻まれたが、じっくり間を置きながら、ミケル・メリーノがゴール前に飛び出すタイミングを見計らいその前方のスペースに寸分の狂いもないクロスを上げた31分のシーンはその相手の心理を見透かしたようなプレーだった。
その後も、巧みなキープでオーレリアン・チュアメニからイエローカードを誘発したり、メッシばりの股抜きでクロースを突破したり、前半のパフォーマンスは、ワールドクラス、もっと言えば、マドリーでプレーするに相応しいハイレベルな内容だった。
もちろん敵将、カルロ・アンチェロッティが指をくわえて黙っているはずはなかった。後半、マドリーはラインを下げて、自陣で守備を固めてきた。各選手のアグレッシブさも増し・ラ・レアルはスペースも攻め手も見つけられなくなった。
もちろんその最大の標的だったタケへのマークの厳しさを増し、フラン・ガルシアがイエローカードを提示されると、直後にナチョを交代で投入。守備的に振る舞わせることで、突破を封じにかかった。結局、後半ラ・レアルは無得点。おまけに2点を奪われ逆転を許すという非常に悔しい結果となった。
タケの傑作パフォーマンスに欠けていたのはゴールだけだった。空に向かってグリーズマンよろしく「ここは僕の家だ!」と雄叫びをあげることもできずじまいだった。
取材・文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア)
翻訳●下村正幸
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