日本代表がアジアカップで敗退した翌日、南野拓実(モナコ)、渡辺剛(ヘント)が所属クラブでプレーしたことがオランダでも紹介され、フィリップ・コクー、フース・ヒディンク、マルコ・ファン・バステン、ルート・フリットといった面々を「大陸を跨いで2日連続プレーをするなんて」「いや、彼らに『プレーするな』と言うのは無理だ」と驚かせた。アジアカップの無念は所属クラブで晴らすしかない――。そんな思いがひしひしと伝わってくる。

 オランダリーグ勢のFW上田綺世、DF菅原由勢が所属するフェイエノールトとAZは2月7日のKNVBカップ準々決勝で相まみえ、上田は78分から途中出場、菅原はフル出場を果たした。試合は2−0でフェイエノールトが勝ち、ベスト4に進出した。

 試合が終了した途端、精根尽き果てた菅原がピッチに座り込んだ。この夜、彼に託されたタスクは右ウイングバック。しかし、日本代表からクラブに戻って間もない中、戦術を練り込む余裕はなく、消化不良のまま前半を終了。ハーフタイムのロッカーで、疲労を慮ったマールテン・マルテンス監督から「交代するか?」と訊かれたが、「出ます!」とプレー続行をアピールし、チームが0−1のビハインドを負っていたこともあり、後半は慣れ親しんだ右サイドバックでプレーした。一本、菅原は好クロスを入れたが、FWファン・ボンメルが腿で狙ったシュートは威力なくキーパーに。この日はAZ自体がチームとして元気なく、完敗だった。

 座り込む菅原に歩み寄り、少し話してからロッカールームに引き上げた上田は言う。

「日本代表でこっち(フェイエノールト)にいるより試合に出ていたので、コンディションは問題ないです。アジアカップで負けた悔しさ、無念さがあり、今日、決勝のカード(カタール対ヨルダン)も決まりましたけれど、複雑な気持ちですよね。いろいろ思うところはありますが、負けた身なんでね。アジアカップのことをどうこう言うつもりはありません。日本代表からフェイエノールトに戻ったんで再スタートです」

 昨年12月20日、KNVBカップ・ラウンド16のユトレヒト戦(2−1)が終わった後、シーズン前半戦を1ゴールで終えた上田について、私はアルネ・スロット監督に話を聞いた。

「私たちは普段の練習でシュートを決めまくる上田を見ています。本当に素晴らしいストライカーだから、あなたが心配する必要はない。サンティアゴ・ヒメネスだって一年前はまだダニーロ(現レンジャーズ)を越せてなかったんです。今、ヒメネスが正ストライカーだが大丈夫。ヒメネスはいずれ移籍するから、我々は上田が絶対に必要になります。まず上田は日本代表の一員としてアジアカップで優勝し、2月半ばに自信とともにクラブに戻ってくれば良い」

 スロット監督のみならず、多くの人が願ったアジアカップ優勝を日本は果たせなかった。それでも上田は5試合で4ゴール。負けたイラン戦ではノーゴールだったが、強靭なフィジカルを活かしたポストプレーで、守田英正のゴールをお膳立てした。

「『クラブでやっていることが代表チームで出る』という話を僕はずっとしてきています。フェイエノールトに来て、レベルの高い環境で揉まれている。セルクル・ブルージュ(ベルギー)の時もそう。徐々に、徐々に日本代表でも結果を出せるようになりました。

 しかし『逆(代表→クラブ)も意外とあるなのかな』というのは、セルクル・ブルージュ時代から感じています。日本代表で成長を感じられると、クラブでも自信を持ってプレーできる。特にクラブで試合に出られない時に、その環境でやっていることが身になっていることを実感できる。代表チームで得た成功体験みたいなものを今、自分の刺激としてフェイエノールトでの活動でも活かしたいです」
 
 2019年コパ・アメリカでA代表デビューしてから、上田は14試合もノーゴールが続いた。しかし22年6月のエルサルバドル戦で代表初ゴールを決めると覚醒し、10試合で11ゴールの固め取りを見せている。きっかけ一つでストライカーは化けるのかもしれない。

「例えばシュート練習もそうなんですけど、要は入る日は入る。シュートミスも入るし、入んない時はどんなにいいシュートを撃っても入んなかったりする。フォワードにはそういう傾向があるんです。一生ゴールを取り続けることができればいいですけれど、そうはいかないじゃないですか。1回、ゴールから遠ざかると難しい。例えばの話ですが、5試合連続で取っても、いきなり10試合取れなくなるFWの選手もいる。だけど久しぶりに1点取ると、例えば1試合おきに取れるようになったりする。

『フォワードは信頼が大事』とよく言いますよね。どんなにパフォーマンスが悪くても、信頼を感じていればフォワードの選手は(気持ちが)折れないんです。そのためにはチームメイトに信じてもらえなきゃいけないし、そういう存在になってこそ『そのチームのフォワード』なんです。今、少しずつ代表チームで信頼を得つつあることが、自分の自信、パフォーマンスに繋がっている。その信頼を得ることが『生命線』と言ってもいいぐらい大事なんです」
 その『信頼』を、私は前日、NECの小川航基がヘディングゴールを決めた瞬間に感じ取った。欧州挑戦1年目にして、小川はゴールの数を二桁(オランダリーグ7得点、KNVBカップ3得点)に乗せた。

「ゴールを取れる時はホント取れるんですよ。(味方からのパス、チャンスが)来るし、何も考えないでプレーできるんです。今年移籍して言葉も分からなくても彼(小川)は明るい性格なんで、どんどん溶け込んで、点を取ることでチームメイトからの信頼を得る。そのことで、フォワードはプレーしやすくなるんですよね。そういう軌道に乗ったらフォワードは強いです。僕はまずその軌道に乗らないといけない。やることは山積みです」

 フェイエノールトは今季のKNVBカップの大本命。NECは対抗で、2部リーグ勢のカンブ―ルとフローニンヘンがダークホースになる。

「ベスト4であれ、ベスト8であれ、僕の立場でやることは変わんない。僕はとにかく自分のことをトライし続ける必要があります」
 
 オランダ人記者2人が、「ヒメネスは出場停止だから準決勝のスタメンは上田だ。『(フェイエノールトにとってKNVBカップは)ウエダ・カップ』だぞ!」と妙に甲高く私に向かって叫ぶ。

 その後の記者会見でアルネ・スロット監督は「ヒメネス不在でも大丈夫。うちには上田がいる。今日の彼は前線でよくボールをさばいていた」と上田への『信頼』を口にした。それはストライカーが活躍するためのキーファクター、そして魔法の言葉である。

取材・文●中田 徹

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