柴崎岳がスペインのテネリフェへ移籍した。かねてから海外でのプレーを強く希望していただけに、本人にとっては念願叶っての欧州挑戦かもしれないが、一方でスペインとはいえ「2部リーグのクラブ」に移籍した点を疑問視する声もある。果たして、その選択は正しかったのか。
 
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 テネリフェ入団会見での「言葉が問題になると思うか」との質問に、柴崎岳がスペイン語で『「少しだけ話せる」と応じた』とニュースは報じていた。
 
 あとでスポーツ紙の番記者に聞いたところ、柴?は2年ほど前から語学を勉強していたそうだ。スペインにこだわっていたことがよく分かる。
 
 鹿島を?卒業?するタイミングとしてはベストに近かったと思う。昨季はシーズンを通してMVP級の働きをしたわけではないが、7年ぶりのリーグ制覇にも貢献できた。
 
 プロ入りから5シーズンでヨーロッパに渡った先輩の内田篤人と大迫勇也より、日本でのプレーは1年長かった。海外志向が強いだけに、これ以上国内に引き留めるよりは、このタイミングで外に出てチャレンジしたほうが成長スピードも加速するのではないかと思っていた。
 
 二転三転したラス・パルマスへの移籍騒動を通して分かったのは、日本代表に呼ばれていない柴崎への評価がかなりシビアだったということだ。
 
 クラブワールドカップでレアル・ マドリーから2ゴールを奪ったとはいえ、過去にスペインで日本人プレーヤーがなかなか活躍できていないことも影響しただろう。さらにシーズン途中に欧州内ではなく、遠く日本から呼ぶとなれば、すぐに適応できるかどうかも読みにくい。違約金がかからない?旨味?はあったものの、「獲れるなら獲りたいが、無理はしたくない」というのがラス・パルマスの本音ではなかったか。
 
 柴崎の代理人は中村俊輔、長友佑都、岡崎慎司らと契約するロベルト佃氏だ。過去にも、マーケット最終日に長友をチェゼーナからインテルにステップアップさせた実績があり、 今回も期限ギリギリまで粘って移籍を実現させた。ラス・パルマスと並行してテネリフェとも交渉を進めていた手腕はさすがだ。
 ラス・パルマス入りが叶わずに失意のまま帰国していれば、多少なりともモチベーションに影響が出ていただろう。テネリフェの入団会見でのやる気に満ちた表情を見ても、1部昇格プレーオフ圏内につける(移籍発表時点)テネリフェへの移籍は、本人にとって理想に近かったのではないか。日本代表で活躍するより、スペインでのし上がっていく野望のほう が、今の彼には大きいのかもしれない。

 ここで注目すべきは、契約期間が半年間であることだ。
 
 クラブを1部に上げられればベスト。ただ、活躍次第では昇格させられなくとも1部のクラブから声が掛かる可能性が出てくる。もちろん半年でスペインを去る可能性もあるが、 退路を断つという意味では勝負しやすい契約条件と言える。
 
 国は違うが、鹿島の先輩である大迫はドイツ2部の1860ミュンヘ ンで半年間プレーし、次のシーズンには1部に昇格したケルンへの移籍を果たした。たとえ2部でも、活躍すれば先につながるのだ。
 
 とにもかくにも、柴崎は半年間で結果を残さなければならない。
 
 かつてスペイン2部の3チーム (カステジョン、ヌマンシア、ラス・パルマス)でプレーした福田健二(現・横浜FC強化部)に、メキシコからスペインに渡って最初は戸惑ったという話を聞いたことがある。
 
「スペインは芝が短くて、土は粘土質。練習前にスプリンクラーで散水するので、ボールは止まるどころかメチャメチャ速い。それもあって、最初はボールコントロールに苦しみました。それに中南米の人たちはフレンドリーで、試合後にみんなでバーベキューをやったこともありましたけど、スペインは一人ひとりが独立している。評論家のように、それぞれが独自のサッカー観を持っている感じでしたね」
 
 戸惑いや環境の違いも成長の糧となる。2部リーグから這い上がっていく柴崎の姿を、ぜひ見たい。
 
文:二宮寿朗(スポーツライター)