モダンフットボールにおいてセンターバック(CB)に求められる資質とは何か。この問いに答える前に、まずはポジションについての考察が必要だろう。
 
 攻撃と守備という2つの局面から成り立つサッカーというゲームにおいてCBは、全フィールドプレーヤーの中で守備の比重が最も高いポジションである。最大の役割は、チームの最後尾中央に位置してゴールをプロテクトすること。したがって、守備の局面においてプレー機会が訪れるのは、ここで相手の攻撃を防がなければ失点に直結するような状況になった時(あるいはひとつ間違えばそうなる時)だ。
 
 そこで求められるのは、目の前の敵にシュートを打たせないことであり、そのもうひとつ前の段階ではボールに触らせない(あるいは触っても前を向かせない)こと。つまるところ、CBにとって最も重要なのは、敵のFWを止める「守備者」としての仕事ということになる。
 
 守備者としてCBが直面する具体的なプレー状況は、大きく3つに分けることができる。そして、そのそれぞれにおいて、求められる資質は少しずつ異なってくる。
 
 ひとつはゴール前の狭いスペースでボールを巡って敵FWと対峙する状況、いわゆる「デュエル」だ。それがクロスやロングパスをめぐる空中戦であれば、高さ(身長、跳躍力)や当たりの強さ(体格、体重)で相手と互角に渡り合えることが必須条件。地上戦においても、最後の25メートルにおけるデュエルでは、まずフィジカルコンタクトの強さがモノを言う。レオナルド・ボヌッチ(ユベントス)、マッツ・フンメルス(バイエルン)、ディエゴ・ゴディン(アトレティコ・マドリー)といった大型CBは、まずこの点で優位に立っており、とりわけ空中戦では無敵に近い強さを誇っている。
 
 同じ対人バトルでも地上戦の場合には、フィジカルコンタクトの強さに加えて、狭いスペースでの反応性やアジリティーも重要になってくる。近年はどの国でも育成年代でコーディネーション・トレーニングが重視されるようになってきて、ジェローム・ボアテング(バイエルン)、ステファン・サビッチ(A・マドリー)、ジョン・ストーンズ(マンチェスター・C)、アレッシオ・ロマニョーリ(ミラン)などのように、180センチ台後半から190センチ台という大柄な体格に高いレベルのアジリティーを備え、小柄でクイックなアタッカーとの1対1も苦にしない大型CBが増えてきた。
 
 いずれにしても、ゴール前のデュエルではまずフィジカルで相手に負けないことが最低条件。この10年で大型化が進んだ結果、今や最低でも185センチの身長がなければCBは務まらない時代になりつつある。それ以下の身長でそれなりのレベルに達するためには、以下で見る他の資質において抜きん出ていることが絶対不可欠だ。
 第2のプレー状況は、守備陣形を整えたうえで、ボールからやや離れたゾーンでFWを視野に収めつつ、相手に対して後手に回らないようポジション的な優位性を保ち続ける駆引きの状況だ。
 
 今はほとんど全てのチームがゾーンディフェンスを敷いているので、CBにはボール、味方、敵という3つの基準点に常に注意を払いながら、次の状況に備えてラインを保ちつつポジションや体勢を細かく修正し、相手がフリーでパスを受けたり、裏に抜け出したりしないよう警戒を続ける必要性がある。
 
 ボールが「オープン」か「クローズ」かによってラインを上げ下げし、ボールの位置と相手の位置を勘案しながらステップを踏んで身体の向きを修正し、FWが動いた時にはマークしてついていくべきか放すべきかを瞬時に判断するのだ。
 
 これをしくじって相手に先手を取られてしまうと、ボールが来た時点ですでに極めて不利な状況に追い込まれるという結果が待っている。
 
 対人の接近戦ではまず何よりもフィジカル能力の高さ(コンタクト、アジリティー)がモノを言うが、それに先んじるこうした駆け引きにおいてはそれ以上に集中力、注意力、プレー展開を読むインテリジェンスといった、メンタル的なクオリティーが重要になる。
 
 傑出したフィジカル能力を備えていなくとも、こうした側面が優れていれば常に敵に対して先手を打ち、優位に立った状況でボールを巡る対人バトルの状況に入ることができる。
 
 豊富な経験と際立った集中力でフィジカルの衰えをカバーしてあまりあるパフォーマンスを見せるアンドレア・バルザーリ(ユベントス)がその典型。180センチのダレイ・ブリント(マンチェスター・U)や174センチのハビエル・マスチェラーノ(バルセロナ)がCBとして通用しているのも、体格的な劣勢を頭脳でカバーしているからだ。
 
 しかし、CBのクオリティーが最も問われるプレー状況は、守備陣形が整っていない状態で直面するカウンターアタック、あるいは押し上げたラインの裏への抜け出しを許した後に生まれるオープンスペースでの1対1だ。
 
 守備陣形が整っている状況ならば、アタッカーが使えるスペースや角度は大きく限定されているうえに、味方のカバーリングにも頼ることができる。しかし、カウンターで抜け出した、あるいは裏に飛び出した敵との走り合いになる1対1においては、自らの個人能力だけを頼りに状況を解決しなければならない。
 
 そこで何よりも不可欠なのは、相手に走り勝つ絶対的なスピードだ。スピードで相手を上回れば、少なくともポジション的な優位を回復できる。同じスピードなら先にスタートを切った相手に利があるし、絶対的な速さで劣っていればそれだけでもう打つ手はほとんどなくなってしまう。
 問題は、身長の高さや体重の重さとスピードは、反比例とは言わないまでも両立が非常に難しい資質だという点にある。190センチ・クラスの身長を持ちながら、トップレベルのFWにも走り負けしないほどのスピードを備えたCBは、世界を見回してもラファエル・ヴァランヌ(レアル・マドリー)、ジェラール・ピケ(バルセロナ)、カリドゥ・クリバリ(ナポリ)、ダビド・ルイス(チェルシー)、コスタス・マノラス(ローマ)など数えるほどしかいない。
 
 しかし、爆発的なスピードの持ち主であれば、体格的には多少のハンディキャップがあっても、それをカバーすることは十分に可能だ。セルヒオ・ラモス(R・マドリー)、チアゴ・シウバ、マルキーニョス(いずれもパリSG)はいずれも183cmとCBとしては小柄な部類に入るが、その圧倒的なスピードで困難な状況をしばしば独力で解決して見せる。
 
 スピードがあるということは、両脚に大きなパワー(筋力)を備えている証拠であり、それは速さだけでなく跳躍力やアジリティーという形でも表現される。したがってスピードがあるCBはほとんどの場合、オープンスペースだけでなくゴール前の狭いスペースにおける空中戦や大柄なCBが苦手とするクイックなアタッカーとの地上戦においても強みを発揮する。
 
 ここに挙げた3つのプレー状況は、チームの戦術、そしてそれ以上に絶対的な戦力レベルによって、出現する頻度とその重要性が異なってくる。
 
 守備陣形を整えた状況におけるゴール前でのデュエルは、相手に押し込まれて守勢に回っていることによって生まれるもの。絶対的な戦力レベルの低いチームの場合、格上相手の対戦が必然的に多くなるため、この状況に直面する頻度もそれだけ高くなる。
 
 こうしたチームにおいて、CBに求められるのは何よりもまず、相手の攻撃を水際ではね返すフィジカル能力の高さだ。スピードよりもまず「デカくて強い」ことが重要になってくる。15-16シーズンのプレミアリーグで奇跡的な優勝を果たしたレスターのCBペア(ロベルト・フートとウェズ・モーガン)は、そのお手本のような存在だろう。
 
 戦力レベルが高くとも、ポゼッションにこだわらずチームの重心を低めに設定して守るチーム、例えばディエゴ・シメオネのアトレティコやモウリーニョのマンチェスター・Uも、スピードの優先順位はそれほど高くない。
 
 逆に、自らがボールを支配し敵陣に相手を押し込めて戦う攻撃的なサッカーを志向するチームには、押し上げた最終ラインの背後に広がる大きなスペースを独力でマネージできる、圧倒的なスピードを備えたCBが不可欠だ。
 
 S・ラモス、ピケ、T・シウバ、マルキーニョス、ヴァランといったワールドクラスのCBと、それに続くボアテング、フンメルス、ボヌッチら二番手グループを分ける最大の違いは、まさにこの絶対的なスピードにある。とはいえ、二番手グループのCBたちにしても、決して遅いわけではなく、CBとしては十分な速さを備えている。
 さらに、チャンピオンズ・リーグの頂点を狙う欧州トップ10のクラブでレギュラーとして通用するかどうかは、一定レベル以上のスピードに加えてもうひとつ、上で見た駆け引きの状況で常に相手に対する優位性を保ち続けるためのメンタル的なクオリティー(集中力、注意力、インテリジェンス)によって決まってくる部分も小さくない。
 
 シーズンを通して、負けるどころか引き分けすらも許されないシビアな戦いを続けなければならないのが、これらメガクラブだ。ひとつのミスが失点に直結するCBという仕事において、つまらないミスを犯さず常に安定したパフォーマンスを発揮できるかどうかは、大きな評価ポイントになる。
 
 ホセ・ヒメネス(アトレティコ)、ファン・ジェズス(ローマ)、ジェイソン・ムリージョ(インテル)、エリアキム・マンガラ(バレンシア)、ソクラティス・パパスタトプーロス(ドルトムント)など、圧倒的なフィジカル能力を備えながら、集中力やインテリジェンスといった守備者としてのメンタル的なクオリティーの不足によるミスの多さゆえに、「メガクラブでは通用しない」という烙印を押されたCBも少なくはない。
 
 しかし実を言えば、CBに求められる資質は前述してきたものが全てではない。ここまで見たのはあくまで守備者に求められる資質であり、CBの仕事は守備だけではないからだ。
 
 とりわけ近年は、敵のハイプレスをかいくぐって後方からクリーンに攻撃をビルドアップすることが、攻撃的なサッカーを志向するチームにとって大きな戦術的テーマになっている。そのためには、質の高い長短のパスワークでプレスをかわして攻撃を組み立てるテクニックと戦術眼、いわば「最終ラインのレジスタ」としての資質がより重要になってきている。
 
 メガクラブはもちろん、それに続くレベル(CL、EL出場権獲得を目標に戦う)のビッグクラブにおいても、守備者としての能力に多少目をつぶっても、ビルドアップの起点としてのレジスタ的な資質を重視したCB起用を行う監督が増えてきている。
 
 マスチェラーノやブリントのケースがまさにそうだし、あるいはセサル・アスピリクエタ(チェルシー)やアレクサンダル・コラロフ(マンチェスター・C)のようにSBを本職とするプレーヤーが、CBとして起用されるのもそれが理由だ。
 昨今の移籍市場で高い評価を受けている若手・中堅CBの中にも、サミュエル・ウンティティ(バルセロナ)、スコドラン・ムスタフィ(アーセナル)、ステファン・デフライ(ラツィオ)、フィルジル・ファン・ダイク(サウザンプトン)、エメリック・ラポルト(アスレティック・ビルバオ)、ロマニョーリ(ミラン)など、守備力以上にビルドアップ能力の高さを最大の長所とするCBが増えてきている。
 
 そしてもちろん、世界最高レベルと称される偉大なCBたちは、かつてのアレッサンドロ・ネスタやパオロ・マルディーニから、現在のT・シルバ、S・ラモス、ピケ、マルキーニョスまで、守備者としてのクオリティーだけでなく、ビルドアップ能力においても傑出したプレーヤーばかりだ。世界の最高峰を極めるためには、ここまで見てきたすべての資質を高いレベルで備えた「デカくて強くて速くて賢くて巧いCB」でなければならない。
 
 11年前の2006年、純粋なCBとしては史上唯一のバロンドール(フランツ・ベッケンバウアーとマティアス・ザマーはリベロであり本来はMF)を獲得したファビオ・カンナバーロは、176センチしかなかったが、こと守備に関しては、身長以外のすべてにおいて誰よりも傑出したCBだった。
 
 しかし、ビルドアップ能力は、現在の水準なら及第点レベル以上ではなかった。彼も今なら当時よりも大きな困難に直面するのかもしれない。
 
文:片野道郎