タイ代表のスーパースター、チャナティップ・ソングラシン(以下、ジェイ/彼の愛称)が、移籍した北海道コンサドーレ札幌のチームメイトを引き連れてタイへ戻ってきた。彼の移籍に伴ったムアントン・ユナイテッドFCとの友好親善試合「バンコク国際フットボール招待」へ出場するための帰国だ。
 

 札幌を7月20日夜に発ち、バンコクには翌朝に到着。早朝にもかかわらず、バンコク・スワンナプーム国際空港には多くのタイ大手メディアが集結し、自国のスーパースターを出迎えた。
 
 試合前日に行なわれた公式会見へ“主役”として出席したジェイは、同じく出席していたムアントン・Uの王様、ティーラシン・デーンダーを前にして「明日はティーラシンに勝ちたい」とコメントし、場内の笑いを誘っていた。普段あまり表情を変えないティーラシンでさえもはにかんだ一面を見せるほど、ジェイは愛され、また温かく友好的な空気で進んだ会見となった。
 
 また同日夜に行なわれた公式ウェルカムパーティーでも、ジェイは自らの立場を理解し、率先して各テーブルを周り、出席者や元チームメイトたちと交流を図りながら動き回っていた。その様を見て「何らピッチ上での姿と変わらないじゃないか」と嬉笑し、また改めて彼の屈託のない笑顔とパーソナリティに感銘を受けた。札幌へ移籍して1か月、すでにチームには馴染み、同僚からも愛されているという話も納得である。
 
 ジェイ見たさにスタジアムへと足を運んだファンの眼は、キラキラと輝きに満ち溢れていた。その光景を目の当たりにして想い起すのは、22年前、ジェノアに在籍していた三浦知良のヴェルディ川崎との凱旋試合だ。筆者も心膨らませて観に行った思い出がある。その当時の光景とシンクロし、四半世紀近く経ったいま、こうやって東南アジアでも同じ現象が起きていることに、なんだか嬉しさを覚えた瞬間だった。
 
 試合は66分、前半は“札幌の18番”として出場していたジェイが、慣れ親しんだ“ムアントンレッドの18番”を着てピッチに登場。親善試合ならではの粋な演出にスタジアムが湧いた。そして攻撃のリズムを増したムアントン・Uにゴールが生まれる。76分、左サイドからジェイが入れたパスをヘベルチ(7番/元C大阪、仙台にも在籍)が綺麗にゴールへ流し入れる。これが決勝点となった。
 
 アディッショナルタイム、スタンドではウェーブが起きていた。SCGスタジアムでは珍しい光景である。ファンが心満たされた証だろう。
 今回の札幌のタイ遠征メンバーはベストメンバーではなかった。翌週水曜日(7月26日)にはルヴァンカップ・プレーオフステージ第2戦(アウェー・セレッソ大阪戦)を控えており、主力を温存した編成だったに違いない。致し方ないことである。ただ小野伸二や稲本潤一といった、タイでも名が知られた選手とジェイの競演を観たかったファンには少し残念だっただろう。
 
 しかしそれよりも気になったのは、札幌の公式サイトの最新試合一覧やスケジュール欄には、この親善試合の情報が一切記載されていない事実だった。
 
 かたやムアントン・Uのもてなしは凄かった。以前ヨーロッパ強豪クラブを招いて行なわれた親善試合以上の対応だった。札幌側の重鎮も観戦に訪れてはいたのだが、この双方の温度差は否めない。スタジアムバックスタンド2階席に“ULTRA’SAPPORO”の横断幕をしたためてタイまで乗り込んだ熱いファンを除いては。
 
「圧巻! ジェイは“今年もリーグチャンピオンになれることを祈っている”と言い残し、麒麟(ムアントン・Uの愛称)を去る」【サイアム・スポーツ】
「チャナティップが麒麟を勝利へ導くアシスト」【FourFourTwoタイランド】
「強い! チャナティップが麒麟を札幌から勝利へ導く」【Goal.comタイランド】
 
 試合後のタイメディア各社の見出しだ。どこもジェイの活躍を賞賛するものばかりであった。
 
 来週末からはJ1リーグが再開する。ジェイのデビューはどのタイミングで訪れるのだろうか。極東からの情報を楽しみに待っているファンがタイには大勢いる。あのスタジアムで眼を輝かせていたファンの様に。
 
取材・文:佐々木裕介