ヨーロッパから古巣へ帰還したものの、待ち受けていたのは怪我による離脱とリハビリの日々……。同様の道を経てきた清武弘嗣、山口蛍、そして柿谷曜一朗は今季、どんな思いを胸にピッチで戦っているのか。清武を中心とした3人の絆とは――。
 
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 ロシア・ワールドカップ・アジア 最終予選のイラク戦(6月13 日 /△1-1)の翌日、珍しく他の記者の姿が見えないC大阪の練習場で、清武に代表戦の感想を尋ねた。すると彼 は、言葉少なにこう答えた。
「俺らとしては、(山口)蛍が無事に帰って来ることを祈るだけですね。代表の戦いについて、メンバーに入っていない今の自分が言えることはない」
 
 ただ、C大阪についての話題になると、清武は熱い想いを吐露した。
「今の良い流れを続けていきたい。ずっとセレッソを見ているから分かると思いますが、今年はチャンス。レヴィー(・クルピ元監督)の時もACLの出場権を取ったけど、ユン(・ジョンファン)さんが率いている今のチームの雰囲気は、その時より上だと思う。(自ら躍進に貢献した)2010年に比べると、派手さはなくなったけど、“戦う”意識は増している。このチャンスをモノにしたい。失点が少なく、点も取れていて、上位につけている。簡単には負けないし、チームの成長が楽しみ。良くなっていく手応えしかない」
 
 その週末に行なわれた15節の清水戦は、右太腿の怪我から復帰したばかりとあって、ベンチスタートとなった清武だが、0-1で前半を終えると、後半開始からピッチに立った。 与えられたポジションは今季のリーグ戦で初となるトップ下だった。すると、後半アディショナルタイムにPKを沈め、チームに貴重な勝点1をもたらした。
 
 セビージャから4年半ぶりにC大阪に戻った今季、清武が任されたのは彼が最も得意とするトップ下ではなく、右サイドハーフだった。ユン・ ジョンファン監督としては、キープ力の高い清武をサイドに置いて起点を作り、攻撃の流れをスムーズにさせる狙いがあった。
 
 清武自身、「サイドはトップ下よりも上下動が激しい。後半の途中からは頭も足も止まる。ペース配分が難しい。でも、疲れても頭だけは常に回転させないといけない。それに、外に張るだけではなく、中に入ることもあるし、そのバランスを探している」と話し、新たなポジションを自分のものにしようと意欲的に取り組んでいた。
 
 右サイドハーフとして先発した 16 節の仙台戦でも、柿谷の先制点をアシスト。いよいよ本領発揮か――。そんな期待が高まった矢先に、アクシデントが起きた。前半終了間際、カウンターで抜け出した際に左太腿裏を痛めてしまう。今季4度目の負傷は左ハムストリング筋の損傷で、全治8週間との診断だった。
 
 今季もキャプテンを務める柿谷は仙台戦後、「キヨ(清武)がプレッシャーを感じないよう、僕らがピッチで結果を出すだけ。去年、みんなが自分にそうしてくれたように、僕がキヨのためにできればいいと思う」と気丈に話した。ただ、翌週の練習場では、「(清武の離脱は)痛いと言えば痛い」と本音を漏らしている。
 
 C大阪をJ1に復帰させるためにバーゼルから古巣に戻った昨季、柿谷はキャプテンに指名され、精神的支柱、攻撃の要として重責を担うはずだった。ところが、6月に足首を負傷すると当初の全治期間より長引き、復帰できたのはシーズンも佳境を迎えた11月だった。大黒柱を失っていたチームは自動昇格を逃し、昇格プレーオフの末になんとかJ1復帰を勝ち取った。
 
 今季の開幕前に柿谷は「大黒柱は何人いてもいい」と話していた。だからこそ、ともにチームを引っ張る存在として、強い気持ちを持ってセビージャから戻った清武を心から歓迎した。清武が復帰後初ゴールを決めたのは9節の川崎戦で、柿谷のシュートをGKが弾いたところを押し込んだものだった。また、11 節の広島戦でも、柿谷のシュートがポストに当たった跳ね返りを再び清武が決めている。その都度、柿谷と清武は満面の笑みで抱擁を交わした。そして、そんなふたつのゴールのお返しとばかりに、仙台戦では清武が絶妙なパスで柿谷のゴールをアシスト。ここから新たな関係性が生まれていく。そんな期待を抱ける見事な連係だった。
 一方、仙台戦では山口にも今季初ゴールが生まれている。3-2で迎えた終盤の貴重な4点目だった。ただ、得点後には笑顔を見せた山口だが、ミックスゾーンでは「あまり喜べる気分ではない」とだけ小さな声で話し、スタジアムを後にした。
 
 清武との絆は深く、その加入をチームの誰よりも喜んだのが山口だった。柿谷、清武と同様、山口も2014年に怪我で長期離脱した苦い経験を持つ。キャプテンを務めていた当時、ブラジル・ワールドカップを終えた8月に右膝外側半月板を損傷。シーズンを棒に振り、チームはまさかのJ2降格を喫した。
 
 さらに昨夏には、わずか半年でドイツのハノーファーからC大阪に戻り、世間の注目を集めた。今季はクラブでユース出身者として初めて10番を背負い、黙々と中盤を支える男は、「焦らずゆっくり治して戻ってきてほしい」と清武を気遣う。
 
 もっとも清武を失ったチームは、「清武のためにもしっかりやろうという空気が生まれている。全選手が団結して戦っている」と、ユン・ジョンファン監督が目を細めるほど活気に満ちている。17 節のFC東京戦は前半に先制されるも、後半に入って3ゴールを奪い逆転。暫定ながら約12年ぶりに首位に立つと、その後一度は鹿島に抜かれたものの、18節で再び首位に躍り出ている。
 
 FC東京戦後、清武へのメッセージが書かれた横断幕をサポーターから受け取った選手たちは、スタッフも含めて1枚の写真に収まった。厳しいリハビリに臨む清武を勇気付ける、これ以上ない贈り物だった。“タイトル”への強い意志を示した清武の気持ちを汲んだ柿谷、山口が中心となってこの夏を乗り越えれば、チームの一体感はさらに増すはずだ。彼らが頂 点を極めたとしても、驚きはない。
 
取材・文:小田尚史(フリーライター)
 
※『サッカーダイジェスト』2017年7月27日号(同13日発売)より抜粋。一部加筆修正して転載しました。