「さすがにインドでもなかったですね。水溜りもあって、ここまでというのは初めてです」
 
 降り続いた雨は試合前になるとすっかり上がっていた。しかし、前日はキックオフ時間を9時から12時にずらさなければならないほどの悪天候。加えて、前橋市の富士見総合グラウンドではそこから2試合が行なわれた。結果、芝生は大きなダメージを受け、所々に水溜りができていた。
 
 ボールは蹴った場所によってバウントやパススピードが変わり、当然ドリブルで運ぼうとすれば止まってしまう。今大会中に使っているグラウンドの中でもこのピッチは水はけが悪く、比べものにならないほど状態が良くなかった。
 
 7月27日、そんな劣悪な環境の下で、日本クラブユース選手権が開催された。訪れたのはノックアウトステージ、ラウンド・オブ16屈指の好カード、FC東京U-18対セレッソ大阪U-18の一戦だ。
 
 パスワークやドリブルがままならないなか、いかにしてこのピッチで戦い抜き、勝利を手繰り寄せるか。異彩を放ったのが冒頭のコメントの主で、FC東京のU-17日本代表MF、平川怜(2年)だ。
 
「グラウンドは来てみると想像以上にひどい状況だったので、試合は大変になると思っていた。なので、割り切って試合をするしかなかった」
 
 試合後に冷静にそう振り返ったが、平川にピッチ状況などいっさい関係ない。守備では懸命にボールに食らいつき、闘う姿勢を前面に押し出してチームを牽引。攻撃になればぬかるんだピッチをものともせず、状況に応じて的確なプレーを選択した。
 
 とりわけ圧巻だったのが2点目のアシストだ。MF品田愛斗(3年)の直接FKで先制して迎えた35分。平川はゴール前中央でパスを受けると、パワフルな仕掛けでボールを運ぶ。「自分のところにボールが収まった。相手は仕掛けてくるとは予想していなかったと思うので、巧く裏をかいてワンツーで中に入っていけた」と回顧する。ペナルティ―エリア内に入るとFW原大智(3年)とのリターンで相手を崩し、GKとぶつかりそうになりながらも身体を投げ出してラストパスを配給。最後は原が、冷静にゴールネットを揺らした。
 
 後半は1点を返され、押し込まれる時間帯がほとんど。その事実を考えれば、平川の執念のプレーが勝負を決めたといっても過言ではない。ボランチでコンビを組んだ1学年上の品田も「グラウンドが悪くても前半にボールを動かせたのは、自分の力というよりは平川の力が大きかったというのが正直な感想」と明かし、まさにチームの心臓と呼ぶに相応しいパフォーマンスだった。


 誰よりもユニフォームを泥で汚しながらピッチを走り回った平川。今季は春先から思うようにプレーできない日々が続いていた。
 
 昨季の活躍で周囲からの注目度が大幅にアップし、マークはより一層厳しくなった。攻守両面で躍動感に溢れ、とりわけ長い距離を疾駆してゴールチャンスに絡むなど、ダイナミックなプレーはすっかり鳴りを潜める。加えて、今季はJ3での出場機会もグンと増え、U−23チームとの掛け持ちで体力的に消耗。なかなかコンディションが上向いてこなかった。
 
 しかし、徐々にプロのプレースピードに慣れ、体力が備わってくると、緩やかに調子が上がっていった。「J3やU-17日本代表の国際試合を経験したことで去年や今年のはじめの頃に比べてパワーも付いたし、前には入っていく力強さも備わった」という。C大阪U-18戦では泥臭いプレーでチームに勝利をもたらした。U−17日本代表の森山佳郎監督や、FC東京U-18の佐藤一輝監督から学んだ「闘う姿勢」を随所で披露したのだ。
 
「いまは自分の中で、“闘うこと”が代表やチームで外せないキーワードになっている。中学生の頃では考えられないようなプレーが当たり前になっているし、そこに成長を感じている」
 
 充実した表情でそう話す。
 
 ひとりのミッドフィルダーとして、さらなるスケールアップを遂げた感がある。今日のようなプレーを継続すれば、そうそう相手に止められる場面はないだろう。J3は中断期間に入っており、ベスト8以降はフル参戦する。
 
 クラブユース選手権連覇へ、赤青軍団のエンジンが快調だ。

取材・文:松尾祐希(サッカーライター)