日本クラブユース選手権(U-18)のラウンド16で、FC町田ゼルビアユースが挑んだ相手は横浜F・マリノスユース。20年以上に渡って途切れることなくトップに人材を送り出している名門だ。
 
 試合が始まる前にメンバー表を見て筆者は苦笑した。横浜FMはリザーブメンバー7名のうち、5名が日韓の年代別代表経験者だったからだ。チーム戦術やコンディションといった事情はあるにせよ、そういう選手をベンチに座らせられるのが、このレベルの強豪チームだ。横浜FMはプレミアEAST(1部)で、町田は東京都3部リーグ(5部相当)。戦力差は歴然としてある。
 
 町田も橋村龍ジョセフが今年3月のU-17代表アメリカ遠征に参加し、既にトップ出場を果たしている。しかし彼はこの大会に参加せず、町田に残っていた。ユースの竹中穣監督は「現場と強化との相談で、『何が一番彼を成長させるか』というジャッジ」と説明する。夏休みはトップに適応し、連係を深めるためにも大切な時間だ。加えて彼はJ2で戦うチームの戦力として数えられている。そういった理由から下されたクラブの判断だった。
 
 ただし、町田は主軸が離脱するなかでも、「格上」と互角の戦いを見せてきた。全国の予選も兼ねた関東クラブユース選手権のノックアウトステージでは、三菱養和SC(プリンス関東)、東京ヴェルディ(プリンス関東)を連破。
 
 全国大会も初戦こそFC東京(プレミアEAST)に2-4で敗れたものの、続く京都サンガ(プレミアEAST)戦は0-0で引き分け。松本山雅FC(県1部)には3-0と快勝している。松本戦は竹中監督が「今のところ今シーズンのベストゲーム」と認める快勝だった。
 
 グループステージを振り返ると、FC東京戦の後半ロスタイムに見せた粘りがラウンド16進出につながった。町田は前半に3失点を喫し、後半にも1点を追加されてロスタイムを迎えていた。しかし80分過ぎ(グループステージは40分ハーフ)から2点を加えている。
 
 攻めることでカウンターを受ける危険性もあったはずだが、必死にもがき、チャレンジしたことが奏功。第2戦の京都戦の引き分けにより、その2点が総得点、得失点差の争いで効いたのだ。
 
 京都は第3戦でFC東京に0-2で敗れ、「得失点差-1」でグループステージを終えた。町田は勝点こそ京都と同じ「4」だったが、3-0と快勝したため得失点差で「+1」と上回り、Gグループの2位になった。
 
 竹中監督はこう胸を張る。
「サッカーをやっていて、こういうことって多分あまりないだろうなという出来事だった。最後に彼らがゴールを追いかけたことによって得たチャンスが、時間の経過とともに何か別の具体的なものに変わる経験ができた」
 ベスト16入りを果たして迎えたノックアウトステージの初戦。横浜FMを相手に、前半は苦しい展開だった。町田は5-3-2の布陣で臨んだが、横浜FMの両サイドMFとSBに再三サイドを破られ、防戦に追われた。
 
 先制点は横浜FM。28分、左サイドを崩すと塚田裕介がクロスを送り、岩城大助がヘッドを合わせ、最後はこぼれ球を栗原秀輔が頭で押し込んだ。
 
 後半開始とともに竹中監督は布陣を5-4-1に変えた。指揮官は理由をこう説明する。「思いのほか足取りが重くて、時間が立つにつれて相手が(サイドで)自由になった。そこを消せばボールを奪えるだろうなと思った」
 
 横浜FMの西谷冬樹監督は「(町田が)後ろで時間を作らせてくれなかった」と明かす。町田は相手の横パスに対してはそこまで踏み込まなかったが、相手が「下げた」ボールに対しては激しく追っていた。またその次の縦パスに対してもしっかり蓋をして、GKやDFに蹴ることを強いていた。
 
 そんな流れから相手のミスを突き、生まれたのが50分の同点弾。齋藤滉がエリア左に抜け出し、奥のネットに流し込む形だった。
 
 しかし横浜FMは強力なリザーブ陣を次々にピッチへ送り出す。特に効いていたのは61分からピッチに入った椿直起だ。強烈なスピードと、足に吸いつくようなボールタッチを持つドリブラーが、左サイドを切り裂いた。87分の決勝点も椿の突破から生まれている。彼が中に切れ込んでラストパスを送り、右サイドから入ってきた伊藤優世が仕留める形だった。
 
 決勝点の場面で町田が見せた対応は拙く思えた。右ウイングバックの須藤友介がボールに飛び込んで外され、そこから一気に崩されたからだ。椿のような「抜く」怖さがある選手に対して、間合いを詰めてチャレンジするリスクは大きい。
 
 ただ竹中監督の考えは少し違った。対人プレーの「スピリットを持っている子」という須藤に対して試合中に送っていた指示は、まず椿に時間とスペースを与えないこと。つまりボールが入った瞬間にチャレンジすることは是だった。
 指揮官はこう述べた。
「1回縦に仕掛けられてちょっとキュンキュンと行かれると、怖がって下がるでしょう?それがチームにとってはマイナスになる」
 
 一人目が寄せれば奪い切れなくても相手のスピードを奪い、精度を下げさせられる。そんな状況を二人目、三人目がすぐ利用できれば問題はなかった。ただ二人目、三人目がついてこないと「一人目のチャレンジ失敗」は単なる守備の穴になってしまう。
 
「チャレンジ」はトップチームも含めた町田のポリシーだ。トップチームは人件費がJ2最少規模(※2016年度Jクラブ個別経営情報開示資料より)でありながら、昨季のJ2では7位に入る戦いを見せた。ユースも横浜FMやFC東京に入れなかった人材を集めて戦っている。一方でそういう立ち位置を強みに変える発想が町田にはある。
 
「プレミアを戦っている子たちは、大人の戦い方をしないとペースを持っていかれてしまうことが分かっている。だからこそトライできないものがあると思う。でも僕らはそうじゃない。最後の須藤じゃないですけれど、彼らが球際のところで勝負を仕掛けないことに対して僕らはできる。そのメンタリティを持たせて次のステージ、トップに行かせたい」
 
 チャレンジには失敗がつきものだが、引き換えに得るものもある。町田ユースは「チャレンジをさせる」発想で選手のポテンシャルを引き出し、ベスト16入りを果たした。
 
取材・文:大島和人(球技ライター)