公式発表は「3,000人」。だが実際は、4,000人近くいただろう。
 
 7月30日の全国高校総体(インターハイ)2回戦。大会屈指の好カードである青森山田vs東福岡の一戦は、小さなスタジアムの収容能力を大幅に上回る大観衆で埋めつくされた。
 
 インターハイでは、たいてい記者席など用意されていない。行き場所を失なったわたしはバックスタンドの芝生席で、中・高生やご父兄にまじって戦況を眺めた。
 
 そんな実力伯仲の大一番で異彩を放ったのが、青森山田の10番だ。昨年度のチャンピンシップ&選手権の2冠奪取に多大な貢献を果たし、U-18日本代表の主軸としても活躍するスーパーMF郷家友太。この日は名将・黒田剛監督から、特別なミッションを与えられていた。
 
「相手の10番(福田湧矢)を潰す。それが僕にとってのこの試合のテーマです。しっかり抑える、封じ込めるところからゲームに入りました」
 
 9節を終えて中断期に入ったプレミアリーグEASTでは7得点を挙げ、ゴールランキングで首位タイに付けている。春先から攻撃の中軸としてパス&得点センスをフル稼働させてきた男が、インターハイ初戦の大事なゲームで、守備の重要なタスクを託されたのだ。しかも、満点に近いパフォーマンスを披露したのだから、唸るしかない。

 万能型MFの面目躍如だ。
 
「ビデオでちゃんと研究して、対処法を頭に叩き込んできました。ゴール前に上手く入っていって得点に絡んでくる。それをさせなかったんで、自分としては仕事ができたのかなと思います」
 
 序盤から中盤の主導権を握ったのは青森山田だった。4−2−3−1システムで2ボランチの一角を担い、中央にどしりと居座った郷家。東福岡の攻撃の軸である福田をケアするだけでなく、良質なフィルターとしてピンチの芽をことごとく摘み、守→攻の切り替えも高次元に遂行した。
 
 盤石の守備でリズムを掴んだ2冠王者は前半27分、MF浦川流樺の落としにMF田中凌汰が抜け出し、先制に成功。その後も効果的なカウンターを仕掛けては東福岡を揺さぶり、危なげなくゲームを支配し続けた。後半9分には浦川が鮮やかなハーフボレーを突き刺してリードを広げ、“赤い彗星”を追い詰めていく。
 
 しかし、2年前の夏の王者も負けてはいない。ここからの粘りが圧巻だった。右サイドを軸に反攻に打って出て、後半27分にはMF青木真生都のミドルがディフレクトしてゴールイン。青森山田の黒田監督が「1メートル寄せないとこうなるんだということが、よく分かったと思う」と、反省を促したシーンだ。


 
 CB阿部海大を前線に押し上げてパワープレーを仕掛けてくる東福岡。そんなスリリングな状況にあった後半アディショナルタイム、郷家がスーパープレーで大観衆を沸かせる。
 敵DFがクリアボールの処理にもたつくところを見逃さず、猛然と長駆して奪い取ると、飛び出していたGKの脇を抜く一撃を決めた。勝利を決定づける3点目だ。

 卓越したプレービジョンをつねに働かせ、攻守両面で示した奮迅の働き。あの苦しい時間帯で走り切るタフさ、決め切る勝負強さ。わたしの目の前でずっと大人しく試合を観ていた中学生も、この時ばかりは腰を上げ、「すげえ、すげえよ」と感嘆の声を上げていた。
 
「足をツッてる選手が多くて、あそこに自分が走り込んで、なんとか時間を作れればいいかなと思ってました。したらボールを奪えて、キーパーが中途半端な位置にいるのが見えて、うまく決められました。でも、誰も称えに来てはくれなかったですね(笑)。疲れてたのかな。あれー、って感じでした」
 
 そう話して、報道陣の笑いを誘った。
 
 ただ、試合前は正直、不安もあったという。
 
「不思議なくらい、みんな緊張で声が出てなかった。プレミアとかだとしっかりやれてるのに、いつもより会話がなかったんです。初の全国大会という選手もいるなかで、やっぱり初戦ゆえの難しさがありましたね。でも、試合に入ったら問題なくやれていた。そこは流石だなと思いました」
 
 東福岡に勝利したのもつかの間、明日月曜日の3回戦では、先の選手権決勝で対峙した前橋育英と戦う。かえすがえす、とんでもない“山”に入ったものだ。
 
「最初に組み分けを聞いたとき、2回戦で東福岡と当たるかもしれないと聞かされて、え?ウソでしょ?って思いましたもん。明日の前橋育英はきっと、冬の決勝のリベンジで来る。僕たちは迎え撃つんじゃなくて、立ち向かう気持ちで臨まなければといけませんね。厳しい山ですけど、またミーティングで良い準備をして、ひとつずつ勝利を掴みたいと思います」
 
 生まれ育ったのは仙台市。中学まではベガルタ仙台ジュニアユースで研鑽を積んだ。それゆえ、地元開催の今大会にかける想いは人一倍強い。
 
「去年、インターハイは唯一獲れなかったタイトルなんで、どうしても獲りたい。あとは地元での開催で、応援してくれるひともたくさんいるんで、喜んでもらいたいという想いもあります。この夏のトーナメントを獲ってこそ、ホンモノだと思ってますんで」
 
 強豪相手にフットボールIQの高さを見せつけ、大人顔負けの風格さえ漂わせる郷家友太。最後に、「安藤くん(瑞季/長崎総科大附)が『郷家には絶対負けたくない』と話してましたよ」と伝えると、少年のようにあどけない表情でにっこり笑い、「それは僕もです!」と受けて立った。
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)