文句なしの後半だった。7月30日のインターハイ2回戦で、ディフェンディングチャンピオンの市立船橋が登場。東海大星翔との初戦を3−0でモノにし、きっちり凱歌を上げた。
 
 前半は立ち上がりからなかなかエンジンがかからず、熊本のタイガー軍団に鋭利なカウンターを食らう場面が頻発。前半20分には、結果的にオフサイド判定で取り消されたとはいえ、FKからフリーヘッドでゴールを割られている。
 
 とはいえ後半になると、機動力で相手を圧倒してゲームを掌握。攻撃陣の積極性が前面に押し出される。後半5分、右サイドに流れたMF桧山悠也のアーリークロスをエースのFW福元友哉が頭でねじ込んで先制。その後は圧倒的に攻め立て、同22分にGK長谷川凌のパントキックからFW有田朱里が加点し、その8分後には有田のパスに抜け出した右SB吉田歩未が駄目を押した。攻守両面で、抜群のクオリティーを誇示した。
 
 そんな快勝劇にあっても、チームを包んだのは小さくない危機感だ。試合後の選手たちのきゅっと引き締まった表情が、なんとも印象的だった。
 
 それもそのはず。杉岡大暉(現・湘南ベルマーレ)、原輝綺(現・アルビレックス新潟)、高宇洋(現・ガンバ大阪)のプロ入団トリオを筆頭に、メンタル面で成熟していた主軸の3年生がごっそりと抜け、新チームは立ち上げ時から不安を抱えていた。とりわけ顕著だったのが、新3年生たちの自立心、リーダーシップの欠如。春先のフェスティバル時に朝岡隆三監督がチームの円陣で激しく叱責し、意識改革を喚起する場面に何度か遭遇した。誰も彼も口数は少なめで、大人しい選手ばかりなのだ。
 
 1年時からコンスタントに試合出場を重ねてきた桧山も、最終学年を迎えた。守備のマルチロールはこう説明する。
 
「僕たちは3年生に引っ張ってもらって出てただけなんだと、先輩たちがいなくなって、身に沁みて感じました。自分たちから変わる、変えていこうとする意識が乏しい。プレミアリーグ(EAST)ではぜんぜん勝てなくて、監督にも何度も言われ続けてきました。それが少しずつ、変わってきたのかなと思います」
 
 猛烈な突き上げを敢行しているのが、1、2年生の俊英たちだ。この東海大星翔戦では、橋本柊哉、余合壮太の2年生CBコンビに加え、司令塔の井上怜(2年)、トップ下の松尾勇佑(2年)の4人が先発に名を連ねた。さらに試合途中からは、ボランチの佐藤圭祐(2年)、トップ下の郡司篤也(2年)、ボランチの鷹啄トラビス(1年)、右SBの畑大雅(1年)が出場。今季は背番号10を担う郡司がベンチスタートで、大会前にエースの座を奪い返した福元も一時は控え降格を余儀なくされるなど、途轍もない生存競争が繰り広げられてきた。
 
 超が付くほどのタレント集団。それゆえに効果が見込める荒療治ながら、やはりそこは、朝岡監督の巧みな操舵術と言うべきだろう。夏本番を前に、きっちりとチームを仕上げてきた。


 主将の左SB、杉山弾斗はずっと試行錯誤を続けてきたという。
 
「新しくキャプテンを任されたのに、なかなかチームが浮上できなくて、当然、自分も責任を感じていました。みんなでコミュニケーションを取りながらやってきて、この大会は変わるためのきっかけにしたい。去年の経験者が少ないなかで、自分がどれだけ伝えていけるかが大事だと思ってます。インハイの独特の雰囲気は味わってみないと分からないですから、そういった意味では、難しい初戦を乗り切れたのは大きいですね」
 
 3ボランチの4−3−2−1システムが板に付いてきたこともあり、チームは緩やかに上昇曲線を描いている。だが来春のジェフ千葉入団が決まった杉山は、決して楽観視はしていない。
 
「まだまだ足りないですよ。今日は前で押し込めた。前向きでプレーできれば押し込んでいけるんだけど、その状態になるまでに自分たちで崩れてしまう試合が多いんです。そこの基準をチームとして知ることが大事。確かに競争は激しいですけど、ひとが入れ替わってるだけじゃダメだと思うんです。コイツもいい、アイツもいいってなってこないと、本当に分厚い選手層とは言えない。とくに3年生は、プレーがいいだけじゃ入れない。プラスアルファ、チームになにかを還元できないといけない」
 
 どこか吹っ切れたようで、春先とは表情も語気も、まるで別人のそれだ。
 
 守護神の長谷川は「大会に入って雰囲気が明らかに良くなっている」と語り、郡司は「いまは途中からですけど、足下をしっかり見つめなおしてスタメンの座を奪い返したい」と意気込み、そして福元は、「僕が決めて勝つ。その気持ちがいまはすごく強い」と言い切る。
 
 いまだ発展途上の市立船橋。9度目の戴冠を決め込んだ1年前と同じく、シリアスなゲームで勝ちを拾いながら、進化を続けていく。面白くなってくるのは、まさにこれからだ。
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)