シーズン前に名波浩監督は、戦力的にかなわない相手として4チームの名前を挙げていた。鹿島、G大阪、浦和、そして川崎だ。だから今季の磐田の目標は最高でも5位止まりだった。リーグ戦でトップ4を上回るのは難しいと考えていたという。
 
 しかし指揮官の予想を覆し、磐田はここまで、鹿島、G大阪に3-0で勝利。また浦和に対しては4-2で快勝していた。名波監督自身、この川崎戦に勝利できれば大きな自信につながる、という一戦として意識していたのだ。
 
 その試合は結果的に大量5得点を奪っての勝利。リスペクトする相手に対し、工夫して戦い、敵地で勝ち星を手にしたことになる。きれいな内容ではないにせよ、泥臭く戦いしっかりと勝利したのだから賞賛に値する試合だった。11節のホーム・ヤマハでの対戦では0-2で敗れたが、名波監督はリベンジへの手応えを口にしており、それを現実のものにしたというわけだ。
 
 磐田は、序盤から川崎にペースを明け渡し、無理に自分たちのリズムで試合を進めようとはしかった。8分という早い時間帯に先制できたこともあるだろうが、それにしても川崎にボールを預け、しっかりとした守備ブロックを構築してゴール前にフタをしていた。選手個々のクオリティに違いがあったとの証言もある試合で、だからこそある程度割り切らないと勝利はおぼつかない、ということだったのかもしれない。
 
 そうした割り切った戦いのなか、川辺駿が試合を二度に渡り動かした。最初は8分の先制点の場面。ボランチのポジションから状況を判断して前線に飛び込むと、川又堅碁からのヒールパスを受けて川崎の守備網を突破。降雨でスリッピーな芝を念頭に放ったグラウンダーのシュートが先制点となる。
 
 2-1で迎えた後半。川崎が同点ゴールを奪っていればまた違った展開になっていたであろうなか、55分に川辺が再びゴールネットを揺らす。川崎の崩しの縦パスをカットしてからのカウンターを川辺が、自らドリブルで持ち込んでねじ込んだ場面だった。
 
 試合を動かす2ゴールの川辺は「カウンターがチャンスになると思っていましたし、数少ないカウンターで1点、2点取れれば相手も怯むかなと思っていた。それがうまくできればと思ってました」と試合を振り返る。
 
 川辺の2ゴールは、ともに前方のスペースに飛び込んだ、運動量のあるファインゴールだったが、そうした動きを引き出していたのが中村俊輔の存在だったという。ボランチの川辺が前方に動き出したとしてもその動きに連動して中村俊が、川辺がいるべきスペースを埋めており、その結果として川辺は思い切った攻撃参加が可能になっていたという。
 
 この試合、大島僚太もそうした前方に入り込む動きを見せていた。この動きはある程度磐田守備陣に脅威を与えていたのだが、結果的にゴールに結びつかなかった。それが2ゴールの川辺との違いだとも言えるが、両チームの戦術的な違いもあり、有効に使えるスペースも格段に違っていただけに、一律の比較は適切ではない。ただ、それでもこの日の川辺は試合を左右する2ゴールで輝きを放っていたのは事実だ。
 
 川辺ひとりにやられたわけではないが、チャンスを確実にモノにする決定力は見事だった。
 
取材・文:江藤高志(川崎フットボールアディクト編集長)