[J1リーグ19節]札幌2−0浦和/7月29日/札幌ド

 “タイのメッシ”こと札幌のタイ代表MFチャナティップ・ソングラシンが、29日に札幌ドームで行なわれた浦和戦でリーグ戦デビューを果たした。

 26日のルヴァンカップ・プレーオフラウンド、C大阪戦で途中出場を果たしてテクニカルなプレーを披露していたが、地元サポーターの前で公式戦を戦うのはこの試合が初めて。
 
 前売りチケットは前日までに3万枚以上が売れ、当日の来場者数は33,353人を記録。チャナティップのホームデビューを記念して約3万本のタイ国旗が配布されており、ギッシリと埋まったスタンドに大量のタイ国旗が揺れる光景は壮観なものだった。
 
 チャナティップ本人も「たくさんの人々が国旗を振ってくれて、すごく嬉しい気持ちになった」と試合後に笑顔で振り返っている。
 
 スタメンの予定であることを告げられたのは、前日の練習後だったという。
 
「監督から伝えられた時は、すごく興奮しました。ものすごくドキドキしましたね」と、その時の心境を説明する。ただし、緊張はまったくしなかったとのことだ。
 
「ポジティブな意味での緊張感がありました。前夜もぐっすりと眠りましたよ。夜11時には眠りにつき、朝8時半頃に目覚めました。寝すぎですかね?(笑)」
 
 そして試合での活躍ぶりであるが、3トップの一角として出場した彼のプレーは敢えて「無難な出来」と評しておきたい。
 
 間違えて欲しくないのは、この「無難な出来」というのは極めてポジティブな意味であるからだ。考えてもみて欲しい。日本人選手だとしても、シーズン途中に移籍をしてすぐにチームにフィットすることは容易ではない。数試合は猶予を見てもいいくらいだろう。
 
 それがこのチャナティップはタイから日本へと海外移籍をし、サッカースタイルや生活文化が大きく変化したなかでのプレーなのである。「正直、加入してからしばらくは大変なことも多いのだろうな、と覚悟をしていた」とチャナティップはデビューを前に本音を明かしていた。そうしたなかで大きな違和感なく無難にプレーをしてみせたのだから、「素晴らしかった」という四方田修平監督の評価も的を射ている。
 高いテクニックを持つことは周知されているチャナティップだが、課題は守備と目されていた。それはそうだろう。彼がタイで所属していたBECテロ・サーサナやムアントン・ユナイテッドは同国屈指の強豪クラブである。基本的にはボール保持の時間が多く、筆者も彼のタイリーグ時代のプレーを現地で見たことがあるが、守備を要求されている場面は皆無に近いと感じた。
 
 そこからJリーグへの移籍であり、加えて、失礼な表現になるかもしれないが、札幌はJ1のなかでは比較的守備の時間が長めのチームである。そうした背景を考えると、試合に出場するためにはかなりの質のプレーを日々の練習から示さなければいけないのである。
 
 過去にJリーグにやってきた東南アジア人選手は総じてこうした戦術的な部分で十分な評価を得られず、J2以下のカテゴリーでも出場時間はなかなか増やせなかった。
 
 そうした歴史があるなかでチャナティップはJ1の試合に出場し、違和感なくハードワークをしていたのだから、すでに大きな仕事をしていると言っていいのではないだろうか。もちろん要所で切れ味鋭いキックフェイントなども見せてくれた。
 
 この日の先発起用を決めた四方田監督は試合後の会見でチャナティップについて「(日本でプレーするにあたり)守備が課題になると思っていたし、本人もそこは覚悟していたと思う。そして早いスピードで吸収してくれた」と意識の高さに言及。実際にチャナティップ本人も札幌加入からしばらくして「四方田監督は守備時のポジショニングや身体の向きなど、細かいところをしっかり指導してくれる。これが本当に嬉しい」と話していた。自らが成長している手ごたえに喜びを得ていたのだろう。
 
 そして最後に記しておきたいのは、身長158センチという彼のフィジカル面だ。浦和という強者との対戦で、その小柄ゆえに倒されたり、はじき飛ばされたりといった場面は目立っただろうか? 答えはノーだろう。
 
「僕は幼いころから小柄だったから、父親に『どうすれば身体の大きな相手に勝てるのか。それを常に考えながらプレーしなさい』と指導されてきたんです」とチャナティップ。ハイスピードな身のこなしで相手のフィジカルコンタクトをかわし、重心の低い、馬力のある踏ん張りで相手と互角以上に渡り合う。このデビュー戦でチャナティップは、しっかりと日本全国に向けて自己紹介を果たした。
 
取材・文:斉藤宏則(フリーランス)