まさに、執念のがぶり寄りだった。
 
 7月31日のインターハイ3回戦。青森山田と対戦した前橋育英は、開始早々に先制されるもしぶとく耐え凌ぎ、ワンチャンスをモノにして前半のうちに同点とすると、後半に怒涛のラッシュ。鮮やかに3−1の逆転勝利を飾った。

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「こんなことを言ったら誤解されるかもしれないけど、正直昨日の試合(2回戦/東福岡戦)は、青森山田勝て! 勝て!と念じてました。我々はここを目標にやってきた。組分けが決まった時から、かならず本大会で対戦して、勝利したいと思ってましたから」
 
 声の主は、前橋育英の山田耕介監督だ。
 
 冬の選手権決勝で0-5の大敗を喫した仇敵。前橋育英の最終ラインには、あの埼玉スタジアムのピッチと同じ4人が並んだ。ディフェンスリーダーのCB松田陸は、尋常ではないモチベーションで臨んだという。
 
「新チームになってから、すべてはこの日のためにです。どんなきつい練習も山田を倒すために耐えてきたし、少しでもダラけてたら、監督に『だから0-5でやられるんだ!』『山田ならもっとやるぞ!』と発破をかけられた。ここでまた負けるわけにはいかなかった」
 
 だが、そんなイレブンの強すぎる想いが空回りしたのか、前半は攻守における持ち前の連動性をまるで発揮できない。すると前半5分、敵のゴールキックからMF郷家友太がヘディングで落としたところをMF田中凌汰に決められ、あっさり先制を許してしまう。その後も青森山田の素早いフォアチェックの前に手も足も出せず、完全にペースを握られた。
 
 選手権王者、強し――。だが、劣勢を強いられていた前橋育英は前半31分、起死回生の一撃をお見舞いする。左CKから左SBの渡邊泰基が頭で競り勝ち、最後はCB角田涼太朗が蹴り込んで同点としたのだ。最初の決定機を見事ゴールへとつなげ、山田監督は「あの一発で流れが変わった」と回顧した。
 
 松田は、戦況をこう見定めていた。
 
「前半の早い段階で失点してしまったのは、反省点です。選手権の決勝はそこからずるずるやられて5失点を喫してしまったんですが、今日は流れが悪いながらもなんとか踏ん張れた。落ち着いて締められた。それが、あの苦しい時間帯での同点ゴールにつながったんだと思います。すごく大きかったですね」
 
 迎えたハーフタイム。山田監督のゲキが飛んだ。
 
「1点はしょうがない。切り替えてやるしかないと伝えましたよ。山田は逆サイドに一発で振ってくるけど、我々はしっかりスライドして対応しつつ、出させないようにファーストディフェンスのところもしっかりやろうと。逆サイドは捨てていい、出たら出たで対応すればいい。それからやはり、クサビをもっと入れて、仕掛けていけと。とくに(左SBの)泰基。自分のストロングを活かさないでどうするんだ、もっと行けよと言いましたよ」
 
 指揮官の魔法の言葉が、上州のタイガー軍団を覚醒させる。後半開始2分、またしても左CKからMF塩澤隼人がねじ込んでまず逆転に成功すると、形勢が一変。攻めては左サイドを拠点に数的優位な状況を矢継ぎ早に作り、守ってはコンパクトな陣形を維持しながら、鬼気迫るディフェンスで縦に入るボールをことごとく弾き返す。青森山田のロングボールとカウンターをほぼ無力化した。


 その後も後半4分にFW高橋尚紀が、8分には再びCKから角田がフリーヘッドを放つも、追加点は奪えない。逆に11分、青森山田の田中に決定打を放たれヒヤリとさせられるも、これは守護神・湯沢拓也がファインセーブで阻止。事なきを得た。
 
 そして25分、監督の叱咤激励に果敢なプレーで応えていた渡邊が左サイドをパワフルに打破。えぐった折り返しをFW榎本樹が押し込み、決定的な3点目をもぎ取るのだ。
 
 3-1の快勝劇。主将の田部井涼は、勝因を訊かれてこう答えた。
 
「セットプレーはとても大事で、僕たちの大きな武器です。攻撃の精度はどんどん高まっていて、今日も練習通りにニアで合わせる形がハマりましたね。ただ、セットプレーは攻撃だけじゃなく、守備の強度もずっと高めてきてて、あの迫力がある山田のセットプレーにもしっかり対応できた。(選手権決勝の)5失点は……今日の試合前にもう一回見直したんですよ。気合が入りました」
 
 2回戦で東福岡を破った青森山田を、3回戦で前橋育英が逆転で下した。この“恐怖の山”はまだ終わらない。前橋育英の準々決勝の相手は、これまた古都の優勝候補、京都橘だ。高校サッカーファンにとってはたまらないカードが続く。
 
 選手権王者にリベンジは果たしたが、もちろんここがゴールではない。群馬の名門が見据えるのは、8年ぶり2度目の戴冠だ。
 
「僕たちには勢いがある。このまま一番上まで駆け上がりたい」
 
 松田の言葉は、チーム全員の総意であるはずだ。
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)