市立船橋を救う捨て身のビッグプレーが飛び出したのは、アディショナルタイムに入るか入らないかのタイミングだった。
 
 2−0から関東一に1点を返され、防戦一方の王者。一本の縦パスがバイタルエイリアに打ち込まれる。受け手のアタッカーが狙ったのは鋭く持ち出してのターンで、そこから一気にゴールを狙う構え。対応したのは、市船のアンカー・平川孟人だ。怪我をも恐れない激しいチャージでガツンとぶつかり、ピンチの芽を吹き飛ばした。

【インターハイPHOTO】流経大柏、市立船橋ら関東勢4校がベスト4進出! 
 
「どっちに転がってもおかしくない局面でした。だからこそ絶対に強く行くべきところで、まさに僕の役目です。気持ちの部分で引いたら、相手のペースに呑まれると思ってましたから」
 
 平川は左膝を強打し、その場に倒れた。ピッチ外に運び出され、そのまま負傷交代。なんとか準決勝(日大藤沢戦)には出場できそうだが、名誉の負傷とはこのことだ。
 
 関東一の小野貴裕監督は、勝敗を左右したワンプレーをこう評した。
 
「最後に平川君が怪我したところなんて、あのタイミングで突っ込めばそうなる状況。あそこであんな身体の張り方ができるのが、市船の強さだと思う。もし力を抜いて足を出していたら、マイボールにできていたと思うし、ウチは前に人数が残っていた。一番のチャンスになってたと思うけど……入れ替わらせてもらえなかったですね」

 今大会では3ボランチの中央に陣取り、4−3−2−1システムの心臓部を担う。チームがようやくまとまりはじめてきたと、手ごたえを感じている。
 
「ボランチ3枚のバランスはけっこう良くなってきました。誰かがひとり行ったらどんどん厚みを持たせていくのが約束事。ビルドアップの時は、去年はひとりが後ろに下がってましたが、今年は3人のうち誰かがそれをこなすという感じで、流動的なんです。そうした引き出し合いが、まずまず上手く行くようになってきました」

 小5から中3までは鹿島アントラーズの下部組織で鍛えられ、「気持ちでは絶対に負けちゃいけないと叩き込まれた」という。「ボールを奪うのが自分の持ち味。横にずれたりとか裏へのボールの対応とかには課題がありますけど、“際”に持ち込んだら絶対に負けません」と言い切る。
 
 どこか大人しい印象を受ける今年の市船にあって、闘争心を前面に押し出す平川の存在は貴重で、チームを奮い立たせている。昨年は同じポジションで、同じく背番号4を付けた金子大毅(現・神奈川大)が名黒子として異彩を放った。平川は「僕のボール奪取力は金子さんにはぜんぜん及ばない」と謙遜するが、その貢献度とプレゼンスは優るとも劣らない。
 
「今日の試合(関東一戦)でも2−0になってから引いてしまって、押し込まれる時間が長くなってしまった。引いてしまうのは僕らの課題なんですけど、それでも勝ち切れているのは大きい。プレミアリーグ(EAST)は最下位で、ずっと調子が上がらないままだった。でもこの大会で流れを変えよう、1試合でも多く勝って、自分らの力を見せつけようとみんなで話してきました。優勝しますよ」
 
 夏の連覇まで、あとふたつ。決して目立たないが、もっとも“利いている”。市船魂を体現するこの屈強アンカーが、紺碧の艦隊をふたたび頂点へと導く。
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)