見事、覇権を奪還した。全国高校総体(インターハイ)の女子決勝で、日ノ本学園は連覇を狙った藤枝順心を1−0で撃破。2年ぶり5度目の優勝を飾った。
 
 インターハイ女子の歴史は浅い。正式に競技種目となったのは2012年度からで、今回がまだ6度目。そのなかで日ノ本は、5度も夏を制しているのだから驚きだ。チームを率いるのが、田邊友恵監督である。

【インターハイ女子決勝PHOTO】日ノ本学園が藤枝順心を下し、2年ぶり5度目の優勝!

 情熱の指揮官、として名を馳せる。現役時代はアルビレックス新潟レディースでプレーし、引退後に指導者に転身。2008年からJAPANサッカーカレッジレディースで指揮を執り、2012年に日ノ本学園の監督に就任した。以後、高校選手権を2度制し、インターハイが今回を入れて5度と、合計で7度の日本一に輝いている。実績だけで見れば、ダントツの結果を残しているのだ。
 
 取材をすると、いつも誠実に礼儀正しく対応してくれる。ほとんど勝った試合にしか遭遇していないが、つねに試合後はスマイリー。だが言葉の端々に、ほとばしる情熱を感じる。
 
 一度、なぜそんなに勝てるのか、秘訣を教えてほしいと訊いたことがある。すると、「そんなのあったらわたしが教えてほしいです。いつも悩んでばかりですよ。毎年毎年どうなるか分からない中で必死に取り組んできただけです」と返され、くだらない質問だったと反省した。
 
 常勝軍団を率いてきた田邊監督だが、昨年度は就任以来初めて、無冠に終わった。インターハイは準決勝で藤枝順心に、選手権は2回戦で十文字に敗北。ともにその大会の女王となるチームの後塵を拝した。
 
 ひとりの指導者として、微妙な心境の変化があったという。
 
「連覇をしてた時はとにかく勝つことに必死で、ハーフタイムなんかでも『やれよ!』みたいなことばかり言ってたんですけど、今年になってから少し変わったかもしれません。指導者として冷静に状況を見極めて、選手たちがしっかり戦えるように声掛けをしようと思い、臨みました」
 とはいえ、いまひとつチームのムードが高まってこない。日々のトレーニングがルーティーンのようになり、覇気が感じられなかった。たまりかねた指揮官は、誰も思いもつかない荒療治に打って出た。
 
「6月でしたね。サッカーをする以前の問題だったし、もっと意見を言い合える仲にしたいと思って、徹底的に話し合いをさせたんです。サッカーはまるでできない。3日間です。学年でもやり、チームでもやり。『終わりました』と言ってきても『いや、まだでしょ』と突き返して。あの3日間は彼女たちにとって、とても大きな経験だったと思います。みんながあの日を忘れないと、モチベーションビデオにも入れてましたから。あれがあって、ようやくチームになれました」
 
 1回戦の日本航空戦を3−0でモノにすると、2回戦では関東予選・準優勝の前橋育英を1−0で下した。しかし準決勝の作陽戦は、大ピンチに見舞われる。2−0から終盤に追いつかれ、PK戦にもつれ込んだのだ。これを4−2で辛くも制し、ファイナルへ進出。チーム内に「これではいけない」という危機感が芽生え、よりいっそう団結したという。
 
「作陽戦は今大会のポイントでした。PK戦というひとつの山を乗り越えられた。選手たちはもっとしっかり勝ちたかったのに追いつかれたのが悔しかったようで、みんなで修正点を話し合ってましたね。(決勝の相手である)順心はなんだかんだでたくさん点を取って勝ち進んできている。うちは苦しんでるぶん、どんな状況でも対応できるよねという持って行き方をしました」
 
 決勝では、とことん勝ちにこだわったという。選手たちに勝ちたいか、いいサッカーがしたいか、どちらだと訊くと、前者だと答えたという。持ち前のパスワークを徹底すれば、順心自慢のハイプレッシャーの餌食になってしまう。中盤をコンパクトに保って長めのボールを多用し、相手の嫌がることをやり続けた。我慢比べの中で、勝機を探った。
 
 お互いにほとんどゴールチャンスを掴めないなか、均衡を破ったのは日ノ本だった。後半18分、右サイドから放たれたクロスにMF澁川鈴奈が頭で応えて先制。「信じて走り込めばなにかが起こると話していたので、それが形になったゴールでした」と指揮官。これが値千金の決勝弾となった。
 
 どこかホッとしたような表情を浮かべながら、田邊監督はミックスゾーンに現われた。
 
「表彰式を見てて思いました。優勝したのは嬉しいですけど、内容はまだまだだったな、次に向けて気持ちを新たにしなければと。今年の3年生は本当にいい子ばかりでしたが、一人ひとりがすごく悩んでいたし、わたしもどうやってこの子たちに情熱を伝えるべきかで、いろいろ考えました。押したり引いたりしながら。でも最後は、気持ちを出してくれましたね。そこは褒めてあげたいです」
 
 勝ちにこだわって、勝ち切った。小さくない収穫となった。
 
「わたし次第だなと思いました。ちゃんと『勝ちにいく』と伝えたら、しっかりゲームでやれた選手が多かったんです。だからより高いレベルを求めていけば、もっと変われるんじゃないかと思ってます。いい内容で勝つ。それに尽きます」
 
 最後に「今大会の自己採点は?」と訊かれ、茶目っ気たっぷりにこう答えた。
 
「そこそこ良かったと思うので……じゃあ『A』でお願いします。大会前までは『B』だったので(笑)」
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWen編集部)