[J1リーグ20節]川崎 1-1 FC東京|8月5日/等々力
 
 FC東京の中央を締める守備に対して苦戦を強いられた訳ではないが、川崎はポゼッションで上回りチャンスを作るなかでも仕留めることができなかった。特に前半はエウシーニョや小林が構える右サイドから敵陣へ侵入し、前半終了間際の45分には小林のお膳立てから阿部がシュートを放つもポストに当たり無情にも枠外へ。最大の決定機を逃してしまった。
【川崎1-1FC東京 PHOTO】終了間際の同点弾で30回目の多摩川クラシコは引き分けに終わる
 
 その後、後半は車屋が躍動して左サイドからゴールに迫るも、FC東京の守護神・林の壁をあと一歩のところで越えられない。そんななか、72分に投入されたのが森谷賢太郎だった。
 
 交代ボードに表示された番号は「14」。
 
 中村憲剛との交代であったのだが、ややメインスタンドの客席がざわめいていた。確かに今季は中村が途中でピッチを退く場面は多くなってきたが、この拮抗した展開でチームの中核である彼を下げるということが、観衆にとっては驚きだったのであろう。
 
 だが、代わりに入った森谷はしっかりと仕事を果たした。89分、左CKで絶妙なボールを配給し、谷口の同点弾をアシストしたのである。攻め込むものの、相手のブロックをこじ開けられない嫌な空気感を、このゴールで一変させた。
 
「うちはヘディングが強い選手が多いので、その線上に蹴って誰かが合わせてくれるようなボールを蹴った」淡々と振り返る。
 
 出場機会になかなか恵まれないなか、多摩川クラシコという注目度の高い一戦で、しかもチームの象徴である中村に代わって立ったピッチで、数字に残る結果を残した。それは彼にとっても喜ばしいものだっただろう。ただ、本人は不満が残るシーンがひとつあったと言う。
 
 78分、ゴール前中央でボールを受けて不規則に揺れるミドルシュートを放ったのだが、惜しくも枠を外れた。ノーゴールとなったものの可能性を感じるプレーであったため、場内の空気も同点に向けて一気に高まったのは事実だ。だが、森谷本人としてここは“決めなければいけなかった”シーンだったと言う。
 
「あんなにフリーで枠を外すのはありえない」
決めればスーパーゴールだった。ただそれでも、彼にとってはマストでネットを揺らさなければいけない場面なのだと続ける。
 
「やっぱりそれを期待されて出されていると思いますし、そこで枠に入れたり決めたり、というのは自分の力次第。まだまだ練習をしなければいけない」
 
 鬼木監督は森谷投入の意図を「狭いスペースで受けてミドルシュートもその場から打てますし、色々な所でアクセントが付けられる」からだと語っていた。そのなかでアシストをマークしたことも指揮官は評価していたものの、森谷本人としてはやはり、その一番の期待(=ゴール)に応えられなかったことに納得がいかなかったようだ。
 
「ミドルを打てる場面が何度もありましたし、中に入ってからも僚太とか悠くんから『どんどん打っていけ』とは言われていたので。もっと打てるようにというのと、1本を決められるくらいの力をつけなければいけない」
 
 チーム随一のキック精度を持ち、右足から予測不能の軌道を描くボールを放つことができる。過去、そうしたプレーでチームを救ってきた場面は数知れない。ただ、レギュラーに定着しきれていないという側面もある。だからこそ悔しい思いが残ったのだろう。
 
 とはいえ、中村の代役として出場し、結果を残したことで評価と価値を高めたことは間違いなく、首脳陣にも好印象を残したはずだ。次こそはその右足でネットを揺らしてくれることを、期待しよう。
 
取材・文:竹中玲央奈(フリーライター)