仙台の渡邉晋監督による現役指揮官コラム「日晋月歩」の第19回。テーマは「アクシデント」だ。20節の鹿島戦では濃い霧が発生し、後半に2度も試合が中断。途中でカラーボールに代える措置も取られるなど、難しいゲームとなった。
 
 そんな記憶に残る一戦は、仙台&渡邉監督にとってどんな意味を持つのだろうか。中断している時間の使い方や選手への指示、審判とのやり取り、そしてスカウティングビデオに関する後日談まで、赤裸々に明かしてもらった。
 
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[J1リーグ20節]鹿島 2-0 仙台/8月5日(土)/カシマ
 
 試合前、選手には「隙を突くか、突かれるかの勝負だ」と話していた。最大限の集中力をキックオフから発揮することが一番大事なことだ、と。奇しくも集中力を妨げられるような環境で戦うことになり、我々の力が試されるシチュエーションとなった。
 
 戦前から、「鹿島に絶対に使われたくない場所」を意識していて、それを徹底的に1週間のトレーニングで落とし込んできた。その成果もあり、先制を許すまではほぼパーフェクトに作戦を遂行できていたと思っている。だからこそ、前半終了間際の失点は悔やんでも悔やみ切れないものとなってしまった。
 
 それにしても大変な試合だった。霧でゲームが困難になるのは仙台にスタッフとして加入してから初めて。前半は「ベンチからなんとか見えるかな」という感じだったが、後半になったら逆サイドがまったく確認できない。
 
 試合前には「濃霧注意報が出ているので、カラーボールになる可能性がある」と言われていた。ベンチとしてはいろいろな情報を集めていて、このまま霧が晴れないというのは分かっていた。だからこそ、この先に起こり得ることを予測しながら動いた。中断する、再開する、あるいは再試合になる可能性だってゼロではなかった。
 
 審判団が続行を選択したので、もちろん従いはした。ただ、選手からも「見えにくい」という訴えがあったので、「やりにくさが続くようであれば、考え直す必要性もあるのではないか」という話をレフェリーには伝えた。
 
 目視しにくい状況による突発的なアクシデントを防ぎたい気持ちがあった。例えば普段であれば起こり得ないこと、なんでもない場所で交錯して怪我につながるのは、チームにとっても選手にとっても不幸な事態だろう。
 どれくらい時間を置くのかは分からなかったが、再開する雰囲気はあったので、中断してベンチに戻ってきた選手たちに、「完全に休まないでくれ」と話した。選手も戦術の確認をしたり、身体を少し動かしたりしながら準備をしていたように思う。
 
 鹿島の選手たちからは「早く再開しよう」という空気感を感じ取れたので、うちもスイッチを切りたくない。「ひと息ついたらやられてしまう」という考えがあったので、すぐに動けるようにフィジカルコーチに指示を出した。
 
 実は2012年のJ1リーグ10節・清水戦で、ゴルフボール大の雹が降って中断したことがあり、フッと気持ちを落ち着けすぎてしまった反省があった。コーチ時代の出来事だが、その時は自分にも途中で試合が完全に止まってしまう経験がなく、どうやって身体を作り直させようかに悩んだ。再びスイッチを入れるのに苦労したことを覚えている。
 
 また、仙台から鹿島まで応援に駆け付けてくれたサポーターも、ゲームをしっかり観戦できなかったのではないだろうか。そのうえで勝ち試合を届けられず、さらに悔しい想いをさせてしまったことを申し訳なく思っている。
 
 見えないといえば、試合後にスカウティングビデオを持ち帰って確認してみると、前半20分くらいまでしかしっかりと映っていなかった。その後はまったく見えないから、失点シーンがどういう状況で生まれてしまったのかを深く分析できなかった。
 
 DAZNも見てみたが、同じくまったく分からない。そのため、翌日のトレーニングでは選手たちに「こっちではきちんと把握できないので、みんなで話し合ってくれ」と伝えた。
 
 何が起きたのか、なぜ起きたのか、どうすれば良かったのか。鹿島が攻めあぐねていたのは事実で、あの1シーンさえなければ違ったゲーム展開になったはず。だからこそ、問題を解決してもらいたい。
 
 ただ、これも今の我々に足りないものを補う良い機会なのかもしれない。選手一人ひとりが考え、解決策を見い出し、行動する。今シーズンのテーマに掲げた「自立」を促すチャンスなんだと捉えている。
 
 珍しい試合を落としてしまった。しかし次節からはしっかりと結果を出して、チームの目の前にある「霧」が晴れるようにしたいと思っている。
 
構成●古田土恵介(サッカーダイジェスト編集部)
 
※渡邉監督の特別コラムは、J1リーグの毎試合後にお届けします。次回は8月9日に行なわれる21節・磐田戦の予定。お楽しみに!