愛媛との7−4という打ち合いを制した名古屋の勝利の立役者を、ひとりに絞り切ることはなかなか難しい。開始わずか1分半で先制点を奪ってチームを勢いづけた佐藤寿人、その佐藤のゴールをアシストし、その後自らも得点を決めたシモビッチの働きも大きかった。後半の決勝点を含む2得点・1アシストの青木亮太が最も近い場所にいるようにも思えるが、サッカーにおける“ハットトリック”という記録を軽視するわけにはいかないだろう。個人的に推すMVPはやはり、プロ入り後初の1試合・3得点を、ボランチの位置から叩きだした田口泰士に、その一票を投じたいところである。
 
 この日、背番号7が挙げた3つの得点はバラエティにも富んでいた。1点目は無回転と縦回転の中間を行くFKをGKの前に落とし、不規則なバウンドでファンブルを誘った。どこまで狙ったかは明言しなかったが、壁を超えてキーパーの手前でバウンドしただけでもかなりの軌道である。
 
 2得点目は3−0で迎えた後半開始早々、流経大柏高の後輩である特別指定選手の秋山陽介が上げたクロスを頭で合わせた。田口としてはこれが一番のお気に入りのようで、「今シーズン取り組んできた前線へ入っていく動きが良い形で得点につながった」と手応えを感じるものだった。どちらかといえば後方からパスを狙っていくいわゆる“レジスタ”タイプだった田口だが、昨季からはよりイングランド流の“セントラルMF”としての役割を期待されてきたところがある。彼を見た指揮官たちは、そのポテンシャルの高さに要求のレベルを引き上げたくなるらしい。
 
 攻撃だけでなく、守備でも激しくボールを奪いに走り、攻撃に転じた際には誰よりも早く“現場に直行”するバイタリティも彼の魅力で、ボール保持率を高める今季のスタイルの中では、そのキープ力やパス&ゴーのクイックネスも有用だ。風間八宏監督の評価もシーズン序盤はそれほど高くなかったが、キャンプでの負傷離脱から戻ってきて以降は20試合連続でフルタイム出場を続けている。タフネスとテクニックを兼ね備え、ゲームメイクもお手の物、さらにはこうして中盤の底から3得点を挙げる攻撃力まで。元日本代表の才能は、ここにきて存分に発揮されるようになってきた。
 そして3得点目は試合終了間際に滑り込みでゲット。6−4とリードし、時間を稼ぎつつ得点機をうかがっていた90+6分、敵陣深い位置でのボールキープからペナルティエリア内への侵入に成功した和泉竜司がマイナスに折り返すと、「左足で蹴ると膝が抜けるから蹴りたくないけど、最後だしまあいいか」と飛び込んできた田口が文字通り流し込むように、丁寧に左のインサイドキックでゴールを奪った。「しっかりニアが見えたのはよかった」と得点シーンを振り返り、「やっぱり膝は外れたけどね」と最後にひと言。そんな重大な古傷を抱えながら、ここまでステップアップとフル出場を続けてきたのかと思うと、彼の能力の高さに改めて鳥肌が立った。
 
「気分はそりゃあ最高だけど、4−0からの4−4なんてありえないから。舞い上がってる場合じゃない」

 常日頃より内容以上に結果を重視する男は、勝機を逸しかけた自分とチームに警鐘を鳴らす。約15分間で奪われた4つの失点にしても、「人数が足りなくて失点しているわけではないから、あの数分間でそうなるのはおかしなこと。映像を見てチームでしっかり反省しないとね」と浮かれた様子はない。攻撃のスイッチ役として、またパワフルなディフェンスの担い手として、そして得点が期待できる選手のひとりとして。田口は今回のハットトリックを機に、新たな潜在能力の扉を開いたのかもしれない。
 
取材・文:今井雄一朗(フリーライター)