[J1リーグ21節]新潟 0-2 川崎/8月9日/デンカS
 
 20試合を終えて勝点が18チーム中唯一のひと桁で降格がちらついている最下位を相手に、川崎は苦戦を強いられていた。ホニ、チアゴ・ガリャルド、ドウグラス・タンキというブラジル人アタッカー3人の圧力によってラインを押し下げられ、セカンドボールも回収される。そんな時間が続いた。ただ、ボックス内に入る直前での精度の低さに助けられ、大事には至らない。だが、攻撃面ではボールを持てずに満足にシュートも打つことができない状態だった。
 
 そんな煮え切らない展開のなかで、ゲームを動かしたのは個人の打開力だった。39分、敵陣左サイドでボールを受けた車屋が対面の川口を縦に振り切る。直後、磯村がカバーに入ってくるが、ワンタッチで前方に出してスピードで置き去りにし、中への正確なパスを送って小林のゴールをアシストした。
 
 混んでいた中央で、相手の動きを外して合わせた小林も見事だった。しかし、それ以上にふたりを抜き去って見事な“お膳立て”をした車屋のこのプレーは、重苦しい空気を打ち破るのに十分な効果を発揮した。
 
「抜こうとは思っていなかったんですけど、ちょっとフェイントを掛けたら相手の重心が動いたのが分かったので、1人目はそれで(抜いた)。2人目は、けっこう矢印がこっちを向いていたので、ワンタッチで裏に出せれば行けるかなと思って。それがうまく行ったかなと」
 
 車屋はこうアシストのシーンを振り返ったが、ピンときた言葉があった。それは「矢印」だ。
 
 風間前監督が多用していた言葉で、要は相手ディフェンス側が意図する動きの向きのこと。得点シーンではふたり目に対峙した磯村が完全に車屋に勢い良く向かっていっており、その動きの逆を突いたという訳だ。
 
 瞬間的にその判断を下し、アイデアを具現した彼のプレーは、チームに大きな余裕をもたらした。また、今季これまで2点差以上のゲームを1試合しか経験していなかった新潟にとっては、大きなダメージであっただろう。
 そんな勝利のキーマンとなったこの左利きのサイドアタッカーだが、クラブ加入から3年が経ち、崩しのパターンもさらに増えてきている。
 
 相手を瞬間的に抜き去るプレーが代名詞であるが、前節のFC東京戦では相手GKとDFの間を突く正確で鋭いアーリークロスを見せた。そしてこの日の前半には、中央にいる中村とのワンツーでサイドを深くえぐったのだが、これは秀逸だった。
 
「縦だけではなく中を見せておくことで相手は分からなくなるし、そういう使い分けはできたのかなと思います」
 
 元々は正確な「止める、蹴る」の技術をベースに、ゲームを作れるサイドバックという点で貴重な存在であった。自慢のスピードは1対1で発揮され、その負けず嫌いの精神で相手のアタッカーも止めてきた。それに加えて、独力で、味方を使って敵陣の最深部まで入り込める攻撃力も日に日に高まっている。
 
 今季の開幕前、本人は“代表入り”について「もちろん意識はあります」と答えていた。このままパフォーマンスを上げていけば……“その時”は遠い未来ではないだろう。
 
取材・文:竹中玲央奈(フリーライター)