11月5日に行なわれたプレミアリーグ11節のチェルシー対マンチェスター・ユナイテッドの一戦は、その勝敗の行方とともに、ジョゼ・モウリーニョの采配が注目されていた。
 
 アウェーでのビッグゲームでは手堅い戦術を用いるのが、モウリーニョの十八番。しかし巷では、その守備的な戦い方へ批判も聞こえ始めていた。スコアレスドローに終わった8節のリバプール戦を機に、3、4点差をつけての圧勝を重ねた序盤戦の勢いが失われたと見られているのだ。
 
 対するチェルシーは、5日前のローマ戦(チャンピオンズ・リーグ)で3失点を喫して敗れたばかり。その守備の乱れ具合といい、交代時に不満を露わにしたダビド・ルイスに代表されるきな臭さといい、マンチェスター・Uにすれば、優勝争いのライバルの「叩き時」であるという見方が識者たちからも聞かれた。
 
 元マンチェスター・UのCBリオ・ファーディナンドも、その1人だった。
 
 優勝争いにおいては、結果重視の戦法も必要だとしてモウリーニョ流の采配に理解を示しつつも、今回のチェルシー戦では、「マーカス・ラッシュフォード、ロメル・ルカク、アントニー・マルシアルのトリオの初先発を期待したい」と、攻撃的オプションの選択を期待した。
 
 実際、試合では、そのクラブOBの求めたような攻めの姿勢が選択された。我を貫いてきたモウリーニョが世間の批判を受け入れたということではなく、優勝争いのライバルにダメージを負わせる好機と睨んだわけだ。
 
 前線は、ラッシュフォードとルカクの2トップだったが、マンチェスター・Uは、立ち上がりからラインを上げ、左右のウイングバックが敵陣内のアウトサイドに張り出すようにして攻撃を仕掛けた。
 
 だが、結果的には肝心の自軍が、相手を「叩きに行く時」にはなかった。オープンな試合展開で、真っ向から受けて立ったチェルシーと互角に攻め合ったのは15分あたりまで。その後は、次第に主導権を握られていった。
 
 ダイナモのエヌゴロ・カンテがハムストリングの故障から戦線に復帰したチェルシーの中盤では、ティエムエ・バカヨコが果敢に攻め上がり、攻撃の糸を引くセスク・ファブレガスには、エデン・アザールが前線から下がってきて頻繁に絡んでいた。
 一方、マンチェスター・Uの中盤中央には、ダイナミズムをもたらすポール・ポグバも、リズムをコントロールできるマイケル・キャリックも怪我で不在。トップ下で先発したヘンリク・ムヒタリアンは、一時期のように自信が低下しているのか、攻守の両面で存在感が希薄であった。
 
 加えて、前半は3バック右を務めたエリック・バイリーが、アザールのチェックを担ったことが、守備陣形の乱れと自陣のペナルティーエリア手前に空きスペースを生み出すことに繋がってしまった。
 
 後半は、ファウルも厭わないなりふり構わぬ姿勢でアザールを何とか止めていたものの、一方でビハインドを追っての攻撃でモウリーニョは、最後にマルアン・フェライニを投入してのパワープレーという、堅守重視の入り方をした試合と同じ采配を選択した。

 翌朝の国内紙には、チームを攻撃的に戦えなくした原因として、過去数試合でのモウリーニョの采配を改めて責める論調もあった。
 
 たしかにルカクは、リバプール戦から7試合連続でノーゴールとなったが、見事なヘディングでチェルシーに決勝点をもたらしたアルバロ・モラタも、実は6試合ぶりのゴール。どちらが先制してもおかしくなかった時間帯に、ルカクの動き自体は上々で、エリア外からのシュートを枠内に飛ばしてもいた。
 
 主砲の状態は上向いてきており、ポグバら数名の主力の復帰は11月後半と見込まれている。「ちょうどリーグが過密日程となる頃に、最高潮の調子を取り戻せれば」という、試合後のモウリーニョの発言にも一理ある。
 
 但し、「引き分けが妥当だった」との言い分には頷けない。マンチェスター・Uが、フェライニの十八番でもある胸トラップからのボレーで同点に迫ったことをポルトガル人指揮官が引き合いに出していたのだとすれば、チェルシーには、点差を広げるチャンスがアザール、モラタ、バカヨコらに幾度となくあった。
 
「叩きに行く相手」というよりも、「叩きに行く時期」を誤ったモウリーニョ。敗戦後の収穫は、次節から再び守備重視の慎重策を採用しても、しばらくは口うるさいメディアと一部のファンが、「仕方ない」と見てくれそうなことだろうか。
 
文:山中忍
 
【著者プロフィール】
やまなか・しのぶ/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。