前回大会の悔しさは、忘れていない。決勝戦の舞台で、相手が歓喜に沸くのを眺めなければいけなかった。

 最終学年では必ず――。強く誓った思いは、胸の中で燃え続けている。前橋育英のDF松田陸(3年)は、第96回全国高校サッカー選手権大会で前回準Vを超える初優勝を目指す。
 
 松田は、身長175センチとセンターバックとしては決して大きくはないが、落下地点をいち早く予測し、タイミング良く跳んでハイボールを跳ね返す。また、相手のロングパスにスピードのあるカバーリングで対応することができ、守備範囲の広さも際立つ。U-18日本代表では右サイドバックでも起用されており、スピードはどちらのポジションでも生きている。
 
 11月末にはガンバ大阪への加入内定が発表された。他クラブからもオファーは届いていたが「レベルの高いチームで、自分の力を高められると思った」と関西行きを決断した。「ずっと群馬で育って来たので、関西で生活することにちょっと抵抗があります(笑)。練習参加では、話しかけてもらいましたし、チームの雰囲気はすごく良かったのですが、関西の言葉は、ちょっと怖いイメージがあるというか、口調が厳しく聞こえるところもあるので……早く慣れたいです」と純朴な青年の一面をのぞかせるところもあるが、プレー面で物怖じすることはないだろう。G大阪とダービーマッチで争うセレッソ大阪には同姓同名の選手がいることについては、「それは、言われるので、意識してしまいますね。いずれは、超えたいと思っています」と控え目ながら対抗心をのぞかせた。
 
 プロではサイドバックが主戦場となる。松田は「(攻守の切り替えの)アップ、ダウンは結構できるほうだと思うので、攻撃にたくさん絡みたいです。守備では、1対1の球際の争いやドリブル対応の部分で自分の特長を見てもらいたいと思っています」と適応に自信を見せる。元々、高1の終盤までは、味方を使う攻撃の選手だったこともあり、攻守両面で考えたプレーができる。相手のパスを予測してボールを奪うインターセプトも得意だ。ただ、攻撃面に関しては、クロスボールのレベルアップを課題に挙げた。普段はセンターバックでフィードボールを蹴ることが多いためだ。

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 将来が楽しみな選手だが、G大阪はトップチームに日本代表をズラリと揃える強豪。J3で戦うU-23チームからのスタートが有力だ。しかし、5年に渡って指揮を執った長谷川健太監督が退任し、来季からレヴィー・クルピ新監督が就任するタイミングでもある。松田は「監督が代わるので、最初にインパクトを残せば行けると思うので、最初からガンガンやっていきたい。選手権でも優勝すれば(事前に)プレーを見てもらえると思う。それしか目指していません」と選手権からの猛アピールに意欲を示した。
 高校選手権では、悲願の初優勝を狙う。大会直前には、教訓を得た。12月17日、前橋育英は高円宮杯U-18プレミアリーグ参入戦の決勝戦に臨んだが、PK戦でジュビロ磐田U-18に敗戦。悲願のプレミア昇格を逃してしまった。チームにとっては4回目の参入挑戦。後半終了間際に追いついて接戦となったが、山田耕介監督は「センターバックのふたりが良くなかった」と指摘した。

 前橋育英は、前線に起点を作ることができずに、速攻が多くなって全体が間延びした。松田は最終ラインからボールを運んで押し上げるなど、問題の解消を狙ったプレーを見せていた。しかし、攻撃の早い段階で、待ち受けた相手にボールを奪われてカウンターを食らったため、松田と角田涼太朗(3年)のセンターバックが上がった裏のスペースを使われた。先制点を奪われた後もなかなか立て直せず、追いつくまでに時間がかかった一戦だった。

 松田は「プレミアに上げられると思っていたので悔しいですけど、まだ全部が終わったわけではないので、選手権で優勝して終わりたいです。失点したときにチーム全体で何をやるのか、もっとハッキリさせるようにしたいと今日の試合で思いました」と改善点を挙げて、大舞台までの修正を誓った。選手権は初戦となる2回戦で初芝橋本と対戦するが、勝てば3回戦で東福岡と優勝候補同士のビックマッチが実現する可能性がある。東福岡には、同じくG大阪に進むMF福田湧矢(3年)がおり、松田はまず初戦が大事と言いつつ「そこは絶対に負けられないです」と対抗心を示した。
 
 前橋育英は、全国屈指の名門校だが、21回の挑戦で優勝に届いたことがない。昨年は決勝まで進んだが、青森山田(青森)にまさかの5失点を喫して大敗した。昨季は2年生主体のチームで、今季の主力の多くが昨年の決勝を経験している。もちろん、松田もそのひとりだ。

「先制点を取られた後に立て直すことができず、ズルズルと失点した試合でした。チャンスはあったのに決められず、逆に相手は少ないチャンスを決めて来ました。あんなに悔しい思いをして、それを晴らせるのは同じ舞台しかないと思っています。攻撃が悪くても、守備が焦れずに失点ゼロを貫きたい。最後は、絶対に優勝したいです」
 
 1年前に味わった悔しさを糧にして、母校に悲願の初優勝をもたらし、プロの世界へ進む。松田の頭に、ほかのストーリーは描かれていない。
 
取材・文:平野貴也(フリーライター)