最初から最後まで苦しんだ2017年シーズンをなんとかJ1残留圏で終えた広島が、再建を託した城福浩新監督の就任会見が22日、広島市内のホテルで開かれた。熱意をもって招聘に動いた足立修強化部長とともに壇上にのぼり、サンフレッチェへの敬意を表しながら信念を語った指揮官は、はたして広島でどんなサッカーを見せてくれるのだろうか。
 
 もっとも、1時間弱の会見の中で具体的な戦術等々は語られてはいない。まだ選手構成を終えていない時期なのだからそれも当然だが、そのなかでもいくつかキーワードを挙げて城福新監督が描いているチーム作りの方向性を探っていきたい。
 
 会見で城福新監督が最も強調した点は「楽しむ」ことだった。
 
「選手が楽しまなければ見ている人を楽しませることはできないと思っていますし、選手が楽しんでサッカーをできる状況を作りたい。それは何かと言うと、彼ら自身が成長していると実感できることに尽きると思います。個々が成長するための日々の質の追求と厳しい競争。この環境を作っていきたいと思いますし、それこそが楽しむことになってくると思います」
 
 そう語った指揮官は、「自分がもし選手であれば何が楽しいかが、監督としての自分の考え方の根本にある」とも、「ハッキリと言えるのは、まず自分が楽しまないと選手は楽しまないということ」とも語っている。残念ながら2017年は、選手はもちろんクラブに関わるすべての人が楽しむことの難しいシーズンを送ってきた。そのチームに城福新監督がどんなアプローチをしていくのか興味深い。
 
「競争」も大きなテーマになる。クラブに「ベテランと若手の融合、競争」(足立強化部長)を求められる中で、城福新監督は「ピッチの上で誰も特別扱いされる選手はいない。指定席を用意されることはありえない」と厳格に語り、「まずこのチームにベテランはいないと思っています。今年大活躍をしてチームを優勝に導いた川崎の中村憲剛が37歳ということを考えると、このチームの経験豊富な選手たちはまだ中堅」と定義したうえで、「若手に特別な試合の時間を用意することが、必ずしも育成になるとは思っていません。まず5分を勝ち取る。5分を勝ち取ったら15分を勝ち取る。そういうチームにしたいと思いますし、それを阻む中堅どころがいて、それでも時間を増やしていこうとする若手がいる。それで日々の競争が出てくる」と語った。
 最前線にはタイの英雄・ティーラシンがやってくる。J2日本人得点王の渡大生もやってくる。「自分だけにしかわからない悔しさがある」1年を過ごした工藤壮人もいる。今から起用法には注目が集まるが、これから誠実に競争原理の下でジャッジしていくことになるのだろう。
 
 サッカーの志向はかつて率いていたチームでも口にしてきた“ムービング・フットボール”だ。「ムービング・フットボールとは、人とボールが動くサッカーをやって人の心も動かすということで、それこそが勝利に近づくし選手が躍動することにもつながるんだという信念を持っています」とキッパリと語り、「ただ、それをやります、と言って数週間後にできるような簡単な課題ではありません。シーズンが深まっていた時に選手が楽しんで躍動している姿を皆さんにお見せできるように。そうすればおのずと結果も付いてくると思っていますし、選手と共にそこを追求する1年にしたいなと思います」と見据えた。
 
 ミハイロ・ペトロヴィッチ元監督がありったけの情熱をかけてチームを育み、森保一元監督が継承・発展させて3度のリーグ優勝を果たした広島の一時代は終わった。昨年度15位でギリギリJ1に残留したところから、城福新監督はどんな広島を築いていくだろうか。「早く紫の似合う監督になりたい」と会見の途中にニヤリと笑った城福監督が、むしろどんな色にチームを染めていくのか。楽しみは膨らみ、希望のある就任会見だった。

取材・文●寺田弘幸