マルセイユは年内ラストマッチとなったトロワ戦で3−1の逆転勝利を飾った。11月19日から32日間で10試合を戦う過密日程。12月17日のリヨン戦でフル出場を果たしたため、酒井宏樹は中2日のトロワ戦はベンチスタートとなったものの、1−1で迎えた57分にピッチに投入された。

 
 中2日、中3日の試合が続く過密日程のなか、酒井はブナ・サールと併用して使われたのだが、その起用法について酒井がポツリと呟いたことが印象深い。
「相手が上位チームの時は俺で、下位相手に攻め落としたい時にはサールを使うんです」
 
 本来、サールはウイングポジションを主戦場とし、最近になってサイドバックへコンバートされた選手である。したがって突破力に長けている反面、守備面には少なからぬ課題があった。
 
 実際に12月の6試合における起用の傾向を見ても、酒井の言葉どおりグループリーグ突破の懸かったヨーロッパリーグのザルツブルク戦をはじめ、モンペリエ、レンヌ、リヨンといった一桁順位のチームとの対戦では酒井がスタメンに入り、サンテティエンヌ、トロワの下位チーム相手にはサールが右SBを務めた。
 
 おそらくこれは、リュディ・ガルシア監督が守備面・戦術理解・安定性の部分で、酒井に絶大な信頼を置くからこその起用法だろう。冒頭に触れたトロワ戦でマルセイユが逆転へと持っていけたのも、前半は全体的に不安定だった守備とミスの目立ったビルドアップが、酒井の投入後に改善されたことと無関係ではなかった。
 
 酒井本人曰く「守備が全くできない状態」で、海外でのキャリアをスタートさせたことを考えれば、これは驚くべき進歩である。
 
 2016年夏のマルセイユ移籍以降、酒井は守備能力を著しく向上させている。日本代表での試合をこなすたびにその評価は高まり、守備能力の向上と安定感を持てたことが南フランスの名門クラブで、確固たる地位を確立した要因のひとつでもある。
 
「ブンデスリーガでは戦術や規律を重んじる傾向があったけど、リーグ・アンでは個の能力で仕掛けてくるアタッカーが多い」と、在籍した独仏両リーグの違いについて触れ、そのうえで「俺はフランスに来るまで守備を知らなかったと思う」と話す。
 ネイマールをはじめ、キリアン・エムバペ、ナビル・ファキル、メンフィス・デパイといったリーグ・アンのステージで輝きを放つアタッカーたち。彼らとのマッチアップで必要なことを酒井は次のように述べる。
 
「怪我をさせるわけではないですけど、相手が嫌がる守備をしなければいけない。相手がボールを持っている時に激しく行くだけじゃなくて、意味のないところで相手に身体を当てたりとか。そんなのこっちはいっぱいありますからね。マルセイユとパリの試合でネイマールが退場したのも、俺らはあいつに対して相当激しく行ったからです。それも戦術ですし、それもディフェンスなんです。“攻撃的なディフェンス”というのかな」
 
 酒井の守備能力が飛躍的に伸びた一因として、マルセイユでの“攻撃的なディフェンス”の体得が挙げられる。これは間違いなく来年6月のワールドカップでもプラスに働くはずで、さらに日本が“攻撃的なディフェンス”を徹底できれば、ハメス・ロドリゲス、ラメダル・ファルカオら強烈なアタッカーを擁する初戦のコロンビア相手にも「勝機はある」というのが酒井の考えだ。決して引き分け狙いではなく、あくまで「勝ちに行く」と酒井は力強い言葉を発した。
 
 28歳で迎えるロシア・ワールドカップを「俺にとっての集大成」と位置付けるとあって、並々ならぬ意気込みを抱く。マルセイユのみならず、フランス国内でも高い評価を得た男は、来年のロシアで爪痕を残せるか。

取材・文●鈴木 潤(フリージャーナリスト)