いまから2年前の夏、パリ・サンジェルマンはセルヒオ・ブスケッツ獲得のため、バルセロナに対して1億ユーロ(約130億円)のオファーを提示した。

 代理人のジョゼップ・マリア・オロビトグはこれを突っぱねた。「獲得したいならクラブによって設定された違約金(2億ユーロ=約260億円)を支払うのみ。それが唯一の条件だ」と、交渉に応じる姿勢すら見せなかった。

「ブッシ(ブスケッツの愛称)はバルサにとって、まさに理想のミッドフィルダーだ。移籍マーケットをいくら物色したところで、代役は見つからないだろう」と、クラブ内でもブスケッツの評価は絶対的で、しかもその存在感は、ラインをコンパクトにして連動した守備を徹底するエルネスト・バルベルデの監督就任を境に、さらに高まりを見せている。

「ブッシはどんなプレースタイルにも対応できる器用さを兼ね備えた選手だ。しかも周囲からのサポートが増した今シーズンは、持ち前の戦術眼を発揮できる環境がさらに整い、それがパフォーマンスの向上に繋がっている」と、クラブ首脳陣もその活躍ぶりに目を細める。

 ルイス・エンリケ政権時代のバルサは、シーズンを重ねるにつれてカウンター色が増し、撃ち合いの展開を好む傾向が強くなっていった。その代償として中盤はガラ空きになり、広大なスペースをカバーしなければならないブスケッツへの負担は高まる一方だった。

 現在、日本の東京ヴェルディで指揮を執るミゲル・アンヘル・ロティーナは、昨シーズンまでのブスケッツのプレーをこう分析する。

「ルイス・エンリケのバルサは、左右のサイドバックもつねに攻撃的に振る舞っていた。そのため、ボールを失うたびに相手チームにその裏のスペースを狙われていた。ブスケッツがカバーしなければならないスペースは余りにも広大で、彼は奔走を強いられていた」

 だが選手たちに、「味方との距離を10メートル以内にキープする」という約束事を徹底させたバルベルデ監督の就任を機に、ブスケッツの負担は激減した。前スペイン代表監督のビセンテ・デル・ボスケは、その効果の大きさをこう説明する。

「いまのバルサは、最前線のスアレスから最後尾のピケまで、全選手が適切な距離を保ってプレーできている。走行距離が減れば、おのずと無駄な運動量は減るものだ」
 
 1980年代後半にミランに黄金期をもたらしたアリーゴ・サッキも、デル・ボスケに賛同する。

「コンパクトな陣形を保てれば、プレーしやすくなるのは当然のこと。ブスケッツのようなタイプの選手なら、なおさらだ。彼は研ぎ澄まされたサッカーインテリジェンスの持ち主。でなければ、わずか1年の間にスペインの3部リーグ(実質4部)から1部にステップアップし、その直後からバルサの中盤の要に君臨するなんて芸当をやってのけるのは、まず不可能だからね」

 攻撃陣の後方支援役としての能力の高さを日々実感しているからだろう。リオネル・メッシも以前、「僕がチームを作るなら必ずブッシをメンバーに入れる」と語っていた。

 デル・ボスケは続ける。「ブスケッツはボランチのスペシャリストだ。ボランチに必要なあらゆるスキルと知識を兼ね備えている。ビルドアップをサポートする際に、ふたりのCBの間に入ったり、プレスを仕掛けたりといった判断力とタイミングもずば抜けていい。ラインの押し上げ役としての貢献度も高い」

 他にも、「とにかくゲームの流れを読む能力が突出している」(ジェラール・ピケ)、「危ない場面でも、ブスケッツによる4つ、5つのアクションで、チームは守備態勢を整えることができる」(前述のロティーナ監督)と、ブスケッツのサッカーインテリジェンスを称賛する声は後を絶たない。

 サッキも、巨匠ミケランジェロを引き合いに出して追随する。

「サッカーは足でボールを扱うスポーツと言われるが、実際はそんな単純なものではない。『絵は手で描くのではなく、頭で描く』というミケランジェロの有名な言葉がある。その意味で、ブスケッツはサッカーインテリジェンスの塊だ。戦術眼を駆使してつねに適切なポジションを取りながら、チームの攻守のバランスを整えている。攻撃的なサッカーを志向する監督にとって、ブスケッツは中盤の攻守のバランサーとしてまさしく理想の選手なんだ」

 ロティーナはさらに突っ込んだ分析をしてくれた。

「サッカーにおける状況判断能力には、繰り返し練習することで培われるものと先天的なものがある。その意味でブスケッツのインテリジェンスは天性のものだ。テクニカルファウルひとつを取っても、そうした彼のプレーヤーとしての知性の高さを随所に感じさせる」
 デル・ボスケもこのふたりに同調する。「ギャンブル性のある縦パスを狙うか、確実に味方に繋ぐか、といった局面に応じたパスの使い分けも完璧なんだ」

 ブスケッツは決して守備専業タイプではない。事実、ルーレット、フェイク、ターンなど、トリッキーなテクニックも随所に見せる。そんななかサッキは「DESMARQUE(デスマルケ)」、すなわち彼のマークを外す能力に着目する。

「先を読む能力の高さは、パスをもらう動きからも見て取れる。繰り返しマークを外す動きを見せては、巧みにパスを呼び込んでいる。有利な状況でボールを持てない場合でも、より良いポジションにいる味方に素早くパスを繋ぐことができる」

 一方のロティーナは、局面を打開するパス能力に言及する。「相手の守備ブロックの間を撃ち抜くような縦パスも、ブスケッツの大きな武器のひとつだ。相手ミッドフィルダーの背後のスペースに抜け出たメッシやイニエスタらをめがけて寸分狂わず正確なパスを通すことができる」

 昨シーズンからバルサのトップチームでプレーするデニス・スアレスは、そのブスケッツが繰り出すパスの威力を実感しているひとりだ。「ブッシが後方でプレーしてくれると、本当に心強いんだ。多彩なパスを駆使して、僕らが前を向いて仕掛けやすい状況を、繰り返し演出してくれるからね」

 ピケは独特の言い回しでチームメイトの凄さを表現する。「ロンド(数人で輪になって行なうパス回しの練習。奪われたら中に入ってボールを追い回す側に)でブッシが中に入ることは滅多にない」

 バルサ・イズムの申し子にしてリーガ随一のボールハンター――。ブスケッツはバルベルデ監督の指導の下、プレッシングとコンパクトネスを体現するキーマンとして、いまなお進化を続けている。


文●ジョルディ・キシャーノ(エル・パイス紙/バルセロナ番記者)
翻訳:下村正幸
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