3月10日(現地)、リーガ・エスパニョーラ第28節のエイバル対レアル・マドリー戦は、2-1でマドリーが勝利した。
 
 随所で戦術的に興味深いシーンが見られたなかで、筆者が気になったいくつかの“現象”を紐解いていこう。
 
 まず、ペドロ・レオンが怪我から復帰し、右SBにアンデル・カパ、右のボランチにゴンサロ・エスカランテが起用されたエイバルの先発メンバーからは、チームが「昨シーズンまでの形に戻った」ということが読み取れた。具体的に解説しよう。
 
 P・レオンは、ホセ・ルイス・メンディリバル監督に鍛えられたとはいえ、ポジショニングも甘く、対応も軽いため、守備力は決して高くない。
 
 その負担をカバーするのが、カパとエスカランテだ。どちらも前方に向けてエネルギーを持ったプレーができ、P・レオンが抜かれた後、素早くプレッシャーをかけに飛び出せる。マドリー戦では、序盤にこの2人が高い位置でボールを奪う場面が数多く見られた。
 
 では、P・レオンが機能する瞬間とは? それはチームがボールを奪った後だ。高い位置に攻め残ってフリーでボールを持ち、独力で持ち運んで正確なクロスを供給し、決定的なシーンを演出する。それが彼の役割である。

 そんなP・レオンが復帰した一戦では、乾の動きにも変化が見られた。
 
 全体的に陣形の重点が右に偏り、攻守ともにエイバルから見て右サイドからの展開が多くなるなかで、普段よりも中に入り込む場面が増え、横方向の動きが増えた分、運動量も多かった印象だ。
 
 ちなみに、以前に『サッカーダイジェストWeb』で言及した乾の守備力も、P・レオンがいたから身についたという背景がある。
 
 右が攻撃の起点になることから、左はバランスを取るために、守備に参加しなければならない。当初は守備に課題を抱えていた乾だが、年々、その課題を克服している。
 一方、マドリーに目を向けてみると、チャンピオンズ・リーグのパリ・サンジェルマン戦の影響か、立ち上がりは非常に動きが重い印象だった。
 
 ジネディーヌ・ジダン監督が採用したダイヤモンド型の4-4-2は、2トップのクリスチアーノ・ロナウドとガレス・ベイルが守備に参加せず、中盤4枚の距離も離れてしまっていた。
 
 具体的に言えば、サイドで数的不利に陥る現象が起きた。エイバルが左サイドでボールを持ったある場面では、システムのミスマッチにより、図のような数的不利の状況が両サイドで度々見られた。

 特に、エイバルのトップ下に入ったジョアン・ジョルダンは縦横無尽に動き回り、的確に局面をサポート。攻守において数的優位を作り出すのに一役買っていた。
 
 逆にマドリーは、カゼミーロのカバーする範囲が広すぎるあまり、ジョルダンを追いきれず、サイドは無法地帯になってしまっていた。30分までのエイバルの猛攻は、こういったカラクリによって起きていた。
 
 見かねたジダン監督は、ここで動く。ベイルを左サイドハーフに下げ、トニ・クロースを中央に絞らせ、布陣を変則的な4-5-1に変更。途端にエイバルの勢いが落ち着いたこともあり、マドリーのプレス位置は徐々に高くなっていった。
 
 そして34分、敵陣でルカ・モドリッチがパスをカットし、アウトサイドで前線へ絶妙なパスを供給。最後はC・ロナウドが胸トラップからシュートを突き刺して均衡を破った。
 
 それまで決定的なチャンスはほとんどなかったにもかかわらず、モドリッチとC・ロナウドの2人が、たった4タッチでゴールを奪ってしまった。エイバルはショックを隠しきれないまま、前半を終えた。
 後半はマドリーが、「チャンスがあれば点を取りに行く」というスタンスになったことで、エイバルは変わらずにプレッシングをかけるも、相手の布陣変更により、前半よりもプレスの効率は低下。それでも50分に、P・レオンの左CKからイバン・ラミスが頭で合わせ、同点とした。

 しかしマドリーは慌てず、失点から4分後にカリム・ベンゼマとルーカス・バスケスを投入し、エイバルを押し込んで圧倒する。
 
 ベンゼマはDFラインの裏へ飛び出し、L・バスケスは右サイドを上下動して、相手を撹乱。後半の半ばからプレスの鋭さを失ったエイバルにとって、この2人の動きは厄介きわまりなく、ピッチを往復する距離が長くなって体力を削られていった。

 そして、84分にP・レオンのパスミスからC・ロナウドに決勝点を決められ、万事休すとなった。
 
 振り返ってみれば、序盤は勢いに乗ったエイバルが押し込むもゴールを決めることはできず、体力切れを起こした終盤に突き放されるという、典型的なスモールクラブとビッグクラブによる試合内容だった。
 
 だが、マドリーの力を際立たせたのが、エイバルの健闘だったこともまた事実だ。この試合から、メンディリバル監督がどのように課題を設定し、どのように改善していくのか、注目したい。
 さて、最後に乾についても少しだけ言及しておこう。
 
 マドリーとのビッグマッチではあったが、乾は“いつも通り”に連動したプレッシングとハードワークで守備を助け、ペナルティーエリア内の決定的なピンチも防いでみせた。
 
 そしてボールを持てば、積極果敢に対面のダニエル・カルバハルに挑み、ヒールパスで味方のシュートを演出。1対1を制して際どいクロスを挙げるなど、一定の存在感を示した。働きとしては、及第点と言っていい。

 それだけに、あとはゴールが求められる。この試合でも、決定的なシーンが3度もあったが、バランスを崩して空振り、ヘディングを上に外してしまうなど、1点が遠かった。
 
 本人も繰り返し口にしているように、決定力の向上は明確な課題だ。マドリー戦だけでなく、これまでにも決められるチャンスは複数あり、すべて決めていれば、今ごろは2桁得点に到達していただろう。
 
 逆に言えば、乾にゴールという目に見える結果がついてきたとき、エイバルの欧州カップ戦出場が見えてくるかもしれない。
 
文●中村 僚(Ryo Editor フリー編集者)
 
【著者プロフィール】
フリーランス編集者、ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。