2019年も、高校選手権の決勝(青森山田×流通経済大柏)には6万人近い観客が集まったという。
 
 ユース年代の大会としては、世界的に見ても例外的な熱狂と言える。欧州では、この年代のチャンピオンズ・リーグといわれる「UEFAユースリーグ」ですら、数千人の観客を集めることは簡単でない。
 
 しかも高校選手権には、クラブユースは参加していない。ユース年代でも、限られた団体に過ぎないのである。にもかかわらず、これだけの人気を博しているのだ。


 
「やっぱり、選手権を経験したかった」
 
 Jリーグが創設されてから20年以上が経つが、相変わらずそう語る選手は絶えない。クラブユースに所属しながら、あえて高校の部活に“移籍”する場合もある。「選手権」は、今もひとつのブランドと言えるだろう。
 
 クラブユースは充実したハード面を備え、好待遇で地元の一番手の選手たちを集められる。にもかかわらず、現在も代表選手の数は、高校の部活出身者とほぼ同数。育成面で、部活は結果を出しているのだ。
 
 選手権とは、国内における注目度において、同年代最高峰のU-20ワールドカップにも匹敵する大会かもしれない。
 
「5万人の観客に見られながらプレーするのは最高だし、民放でテレビ放送もある」
 
 選手たちは口を揃える。確かにJリーグの試合でも、民放の地上波で放送されることは稀なことだ。その熱によって、選手が劇的な変身を遂げることもある。観客の興奮に、選手がカタルシスを受けるのだ。
 
 その一方で、高校生である彼らに、想像以上の負荷がかかる場合がある。注目を浴びることになった選手は、大抵は実力以上の存在として、周りから担ぎ上げられる。「超高校級」「○○二世」「平成の怪物」など、あらゆる美辞麗句を与えられる。
 
 しかし、実像はなかなかそれらに追いつかない。


 過度に注目された選手は、いつしかストレスを覚えるようになる。良い気分だけではいられない。そこで、とにかくプレーに集中しようとするが、“壁を”壊して入り込んでくる外野の声により、得体の知れない熱に浮かされたようになる。これは、いくらシャットダウンしようとしても、し切れない。
 
「何で、自分がそこまで注目されているのか、分からなかった。(中村)俊輔さんと比較されたり、日本代表のエース候補とか、飛躍し過ぎていて……。褒められるのは嬉しかったけど、居心地が悪くて、どうしていいか分からなかったですね」


 
 拙著『アンチ・ドロップアウト』(集英社)に収録したルポで描いた、阿部祐大朗(2002年から横浜F・マリノスなどでプレーしたFWで11年に27歳で引退)はそう語っていた。桐蔭学園の選手として、高校選手権には3年連続で出場。U-17、U-20でも世界大会に出場している。いわゆる、期待のルーキーだった。
 
 しかし、プロに入ると、まるで勝手が違ったという。高校年代までは自分が中心選手で、周りに頼られることが多かったが、プロでは実力が伯仲。経験も、実力も上の先輩選手たちがいた。高校時代との落差に苦しみながら、自信を失う……。
 
「超高校級」
 
 それはよく使われる言葉だが、プロに入ったら、「高卒Jリーガー」のひとりに過ぎないのである。
 
文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。