3月14日に発表されたU-22日本代表メンバーにも、飛び級ながら当然のように名を連ねている。今季、久保建英の成長が著しい。13歳でスペインから帰国後も、その能力の高さを随所に発揮してきたが、成長スピードはさらに加速している印象だ。FC東京の長谷川健太監督も驚きを隠さない、その急成長ぶりはなぜ可能だったのか。

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 久保建英は、日本記録を大幅に更新する成長スピードで突っ走っている。それは今に始まったことではなく、どうやら小学校入学前からだったらしい。だが天才が出現すると、メディアはブレーキなしに持ち上げ、反面懐疑的なアンチも育てていく。
 
「消えた天才」という番組が人気を集めるほど、日本では早く芽を出した才能が健やかに育つのが珍しい。もちろん海外も成功例ばかりではないのだろうが、ディエゴ・マラドーナは言うに及ばず、例えば16歳でセリエAにデビューした頃から、フランチェスコ・トッティは「将来はアズーリの10番」と言われていた。もっとも十代のトッティが繰り返すダイレクトのスルーパスが、本当に黄金の輝きを見せるようになるのは、だいぶ先のことだ。要するに彼我の決定的な違いは、天才を育て上げた経験則なのだろう。
 
 久保の技術の正確さや判断の的確さには疑いがなかった。残された課題は、コンタクトを伴う守備力に象徴されるフィジカルな部分なので、本来なら時間が解決してくれる。アルゼンチンやイタリアの関係者、サッカー通なら、判り切ったことなのかもしれない。だが久保は日本の概念を破壊する勢いで一気にトップリーグのピッチに駆け上がったため、度々期待値が年齢相応の基準を吹き飛ばしてしまった。
 
 昨年のシーズン序盤、FC東京の長谷川健太監督には「久保が出場することで周囲の大人たちの負担が増えているのでは?」という質問が出た。その時指揮官は答えている。
 
「大人たちも建英の才能を認めているから、汗を流している」
 
 当然である。すべてを備えた16歳など世界中を探してもいない。短所を補う長所があるから、若くてもそこに立つ資格がある。
 
 そして今年の開幕戦後には、敢えて自ら再び同じテーマに触れた。
「(久保は)素晴らしいの一言に尽きる。風下の厳しい条件でタメを作ってくれたから、相手が嫌な攻撃をできた。また交代するまで守備の穴も作らなかった。昨年と同じイメージでも奪われたり倒されたりしなくなり、改めてこの1年の成長を凄いと感じた」
 
 狭所で囲い込まれても、技術にブレがなく堂々と局面を打開し、後半も久保を起点としたカウンターは別格の精度だった。スピードを落とさず、視野を確保しながら、崩しのパスやフィニッシュを仕掛けられる。特に川崎戦は、相手に情報が足りていなかったこともあり、車屋紳太郎やマギーニョは何度か冷や汗をかいたはずだ。
 
 昨年久保をレンタルで獲得した際に、横浜のアンジェ・ポステコグルー監督は語った。
「十分な質を備えた選手だから、あとは経験を与えるだけだ」
 
 先日スペインで指導経験を持つコーチから、日本とは12歳までに身につける個人戦術の質に差があるという話を聞いた。スペインでは、少年期に技術と戦術という確かなベースを固め、そこに肉付けしていく。そう考えれば、バルセロナで大切な時期を過ごした久保のハイペースな成長も理解できる。
 
長谷川監督は語った。
「すでに堂安(律)がオランダへ渡る前くらいのレベルには到達している」
 
 実際に堂安が17歳9か月4日でJ3初ゴールを決めたことを思えば、ちょうど同じ時期の久保がJ1でエース級のプレーをしている価値が分かる。
 
 早熟は久保にメリットとデメリットを与えた。FC東京でトップとU-23を往復し、一方では2種類の日本代表でプレーをした。FC東京の立石敬之前GMも「さすがにU-20代表に送り出すのは躊躇した」と語るほど多忙を極め、多彩な経験を積む反面、繰り返し遠征で留守になるので、所属チームでのアピールを考えればハンディになったはずだ。
 
 しかしここで完全に状況は変わった。
「Uー20ワールドカップで活躍すれば、すぐに欧州から声がかかるかもしれない」
 長谷川監督の弁は、半ば覚悟の表われとも受け取れる。
 
 それでも喧噪馴れした17歳に浮かれる様子はない。
「まだこの先どうなるかわかりませんが……」
 
 向上心を表わす前には、そんな謙虚な言葉が自然と口をつく。当然今後ライバルチームは久保対策を施すだろうが、逆に成長スピードも加速する予感がある。
 
文●加部 究(スポーツライター)