世界中が注目したブラジル代表FWネイマールのパリ・サンジェルマン復帰戦は、サポーターのブーイング、罵声、口笛で始まり、最後はそれらをかき消す「天才の一発」でストラスブールを下す結末になった。

 だがそれでも、ネイマールは満場一致の支持を得ることはできなかった。

 今季はまだ公式戦出場のないネイマールの復帰が濃厚となり、試合前のフランス全国紙『L’EQUIPE』は、PSG番ダミアン・ドゥゴール記者の「サイン、何がなくてもひとつだけサイン」と題した社説を掲載。ネイマールとサポーターは和解に向けた何らかのサインを発すべきで、「その最初の一歩はネイマールが踏み出すべき」「その機会に父親にも黙るよう頼めれば、誰もそれを咎めないだろう」と主張。同時にサポーターにも、「彼に手を差し伸べるべきだ」と促した。

 しかし、サポーターの中核集団「コレクティフ・ウルトラ・パリ」(CUP)の方針は、前夜のうちに決まっていた。

「日曜からは彼に無関心になる」が、土曜の試合のボイコットはせず、「もう彼に過ちを犯す権利はなく、贖罪の道も極めて長いのだと示す」よう、メンバーに指示していたのである。

 試合当日、開始直前にネイマールの名が先発メンバーとして紹介されると、スタジアムからはすさまじいブーイングと口笛の嵐が沸き起こった。「ネイマールは売女の息子!」「ネイマールの父親はサロップ(クズ野郎)!」の罵声も飛んだ。試合開始後も、ネイマールがボールに触るたび、不満の口笛が鳴り響く。

 そんななかでも、中継テレビ局『Canal+』の解説を務めたパリOBの元GKミカエル・ランドローは、「口笛の方が多く聞こえますが、実は拍手も多いのです」と懸命に弁護。それに対し中継アナウンサーは、「いまのところ光っているのはケイラー・ナバスのセーブですよ。ビッグなキーパーだ」と受け流し、やんわりネイマール不支持を表明したようだった。

 やがて、カメラがスタンドのエムバペを映し出すと、ランドローもこうコメントした。「(負傷中の)エムバペは、先日の代表戦も今日も、ちゃんと来ていますね。ネイマールが非難されるのは、こういうことをしないせいです」
 試合は0−0のまま進み、パリSGの“失敗”に終わるかと思われた。ところがアディショナルタイムの92分、ネイマールが鮮やかなオーバーヘッドで決勝点となるゴールを決めると、ランドローは叫んだ。

「これがネイマールです! 観衆も拍手しています! もう芸術作品です!。この1点はパリ・サンジェルマンにとってターニングポイントだと思いますね。これからビッグなパリが見られますよ。今日がスコアレスドローなら別でしたが、このゴールで好転します」

 試合直後に放送された同局の特別番組『CANAL SPORTS CLUB』は、試合前の緊張した面持ちから試合後の笑顔まで、ネイマールだけを追い続けた独自映像を公開。次いで「天才の一発だった!」「とはいえ最初は緊張気味だったぞ」「いや、まるで意に介していなかった」と、ネイマールの復帰戦を議論した。ここでもランドローは、「天才ですよ。今日この日にこんなゴールを決めたんですから」と感心しきりだった。

 けれども、フランス最大のスポーツ専門テレビ局『LA CHAINE L’EQUIPE』の討論番組は、やや趣が異なっていた。「彼のゴールはカーシュ・ミゼール(みすぼらしさをとりあえず隠すマント)か」の問いに、カリーヌ・ガリ女史が「完全にカーシュ・ミゼールよ!」と断言し、「パリ・サンジェルマンのプレーにはスピードも攻撃チャンスも何もなく、GKナバスに救われたおかげで最後にこのゴールが生まれただけ」と手厳しかった。

 また直後に、ネイマールがこれまで無視し続けてきたミックスゾーンに出現することがわかると、「お、これは何か釈明するのではないか?」(『L’EQUIPE』のギヨーム・デュフィ記者)と期待の声があがった。しかし、『France FOOTBALL』誌のデイヴ・アパドゥー記者は「ないない、ネイマールにとってフットボールはビジネス。その必要性からメディアの前に出現するだけで、良心の呵責を感じているとは思えない」と述べた。

 結果は、後者の予想どおりだった。ネイマールは、記者の質問に対して、「サポーターが口笛を吹こうが、彼らの勝手。今後も僕は、気にもかけない」と言ってのけたのだ。これで「要するに良心の呵責もなければ、これまでの言動を後悔してもいないという意味になる」「個人的には、ネイマールが大好きで大嫌いだ」という結論になった。

 チームメイトのイドリサ・ゲイエは、「彼のためにも、チームのためにも嬉しいよ。(あのゴールは)最良の回答だったと思う。才能にものを言わせたわけだからね」とにコメントしている。

 だが、どうやらネイマールは、あの芸術的なアクロバットゴールをもってしても、周囲の評価を覆すには至らなかったようだ。この事態は、おそらく1試合では解決しない。

 ファンやメディアが納得するとしたら、それはネイマールの活躍でパリSGがチャンピオンズ・リーグを制した時なのかもしれない。贖罪の道は、遙かに長そうだ。

文●結城麻里
text by Marie YUUKI