カタール・ワールドカップ・アジア2次予選、グループGの注目の一戦、ベトナム代表対タイ代表が19日、ハノイで行なわれた。昨今、東南アジアのサッカーシーンをリードする両国のリターンマッチは盛り上がった。

 試合前日の18日、筆者がベトナムサッカー協会を訪ねた際、正面門の前には試合チケットを欲するファンが大挙して押し寄せ、警備員とやり合い怒号が飛び交う様を目撃した。また夜には、ハノイ旧市街の繁華街に集ったウルトラ・タイランド(過激派サポーター集団)がチャントを合唱、場に居合わせた白人をも取り込んだ“決起集会”で気持ちを高めていた。

 試合当日の朝刊は各社一面で“越泰戦”を論じた。ベトナムとタイ、両国首都間の直線距離約1,000キロを越えて、多くのタイ人ファンも押し寄せ、どちらも負けられない一戦は両国民注目の的だった。

 会場はミーディン国立競技場。筆者は初めて訪れた2007年のアジアカップ以降、ここへは何度も足を運んでいるのだが、スタジアムから望む景色が毎度変わっていく様には驚くばかりだ。来年4月に迫ったF1ベトナムGPは、この競技場周辺の市街地を走るコースらしく、準備が進められていた。レース開催は2029年まで契約が締結済みと聞く。凄まじい勢いで発展を遂げる国の迫力が、フットボールへも直に影響を及ぼしているのだろう。

 試合も開始早々から、その勢いを感じる展開となった。ホームの声援を背にベトナムが幾度となくチャンスを創り攻め立て、タイは会場の空気に呑まれたのか自分たちのリズムを生み出せない時間帯が続く。

 25分、カウンターからMFチャナティップ(札幌)のパスを受けたFWティーラシン(ムアントン・U)がシュートを放つが、ベトナム代表の“闘将”DFクエ・ゴック・ハイ(ベトテル)が死守。しかし、その後のCKからのプレーでPKを得たタイ代表は、DFティーラトン(横浜)がキッカーを務めるが、ベトナム代表GKダン・ヴァン・ラム(ムアントン・U)が足でセーブし、スタジアムを沸かせた。この一連のプレーが、前半に魅せたタイ代表唯一のビッグチャンスだったと言えよう。

 その直後の31分、ベトナム代表はCKからDFブイ・ティエン・ズン(ベトテル)が頭で合わせてネットを揺らすが、タイ代表GKカウィン(OHルーヴェン)との接触があったとして取り消しに。前半をスコアレスで折り返す。

 後半は一転、タイ代表がボールを保持する時間が長くなり、多くのチャンスを作り出す。しかし、両ウイングがスライドして形成する5バックを敷くベトナム代表を崩すには至らず。タイで行なわれた試合に続いてスコアレスドローの決着となった。
 
 タイ代表の11月シリーズは、2試合で勝点は「1」、グループ首位だった順位も3位まで後退した。

「まだ3試合ありますし、その結果によってはまだ十分に可能性はあると思っています。ただし勝ち続けなければ可能性はないと思っているので、3連勝を目指します」

 ベトナム戦後の西野監督のコメントだ。気丈に振舞ってみせたが、かなり厳しい状況に追い込まれたことは事実だ。

 しかし筆者が一番に気がかりなのは、タイ代表選手のマインドである。交代出場を命じられた控え選手の準備が出来ておらず、ベンチであたふたする姿を目の当たりにしたし、試合後にバスへ乗り込む選手の表情からは悔しさを露わにするものはさほどいないように感じた。

 正直この2試合、監督の采配にも疑問を感じる部分はある。しかしそれ以上に、選手たちが勝利への意欲、モチベーションを高く持って臨んでいるのか、こちらが不安を抱いてしまうくらいだ。

 このままで良いのか、タイ代表よ。自らが変わらなければ、ワールドカップ最終予選はおろか、アジアカップ本戦すら出られない国になってしまう。全ては己次第だろう。

取材・文●佐々木裕介