レアル・マドリーのカンテラ(下部組織)でプレーする16歳の中井卓大にとって、今季は試練のシーズンとなっている。

 ピピ(中井の愛称)は、チームとしての形態も所属するリーグのレベルもプロと言っても差し支えない「カスティージャ」にステップアップする前の最後のカテゴリーである「フベニール」1年目の今シーズン、Cチーム(主に2003年生まれで構成)でプレーする。活躍が認められれば、フベニールB(2002年世代)、あるいはフベニールA(2001年世代)と上の世代のチームの試合にも出場する可能性を得るが、ピピはその機会に恵まれないばかりか、Cチームのレギュラーに定着することもできていない。

 新型コロナウィルスの感染拡大でリーグ戦が中断するまで、マドリーのフベニールCは23試合を消化。そのうちピピは14試合でプレー、うちスタメン出場は8試合しかない。M得点もわずか2点だ。

 21勝1分け1敗で首位に立ち、3ポイント差をつけている2位のラージョ・バジェカーノを除いて3位(24ポイント差)以下を大きく引き離しているマドリーは、ここまで108得点を叩き出し、1試合当たり4.7点と大勝する試合が珍しくない。そのチームにあって、MFとはいえ攻撃的な選手としてこの数字は寂しいと言わざるを得ない。
 
 チームスタッフのひとりは、今シーズンのピピをこう評価する。

「いいパフォーマンスを見せた試合もあったが、その大半は格下が相手だった。力の差が拮抗した相手では、ベンチスタートが常だった」

 その大きな原因となっているのが、フィジカルコンタクトだという。

「フィジカルの弱さが一番のネックになっている。上背があるのは魅力だが、球際の強さをもっと高める必要がある。フベニールCが所属するプリメーラ・アウトノミカは地域リーグで、レベル自体は高くはない。しかし相手チームは2歳年上の選手が大半で、当然身体の成長が早い。ピピはその意味でフィジカルの差という洗礼を浴びた格好だ。ただ才能は間違いなくある。あとは試合をこなすことで、アグレッシブさを磨いていくことがポイントになる」

 過酷な生存競争を強いられるマドリーのフベニールの選手たちはシーズンが終わると、ふるいにかけられる。フベニールCからは毎年30〜40パーセントの選手が構想外を宣告される。とりわけシーズン終盤は、ピピのようにアピールが不足している選手にとっては極めて重要な時期だが、既述の通り、リーグ戦は中断されてしまった。

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 ピピの場合は、クラブ関係者がその将来性を評価していることを踏まえると残留の線が有力だが、太鼓判を押すこともできない。現時点で、退団が濃厚な選手は5、6人。一方、来シーズンのBチームかAチームへの昇格が確約されている選手は10人前後。中井の位置づけは、その間の5、6人が属するボーダーライン上だ。

 ただ仮に来シーズン、他のクラブに出て行くことになったとしても、悲観する必要はない。マドリーのカンテラでは退団する選手であっても、新天地でブレイクした場合に備えて、業務提携を結ぶマドリード州のクラブにレンタルの形でプレーさせるのが常で、その際に呼び戻すことができるオプションを保持する。

 過去にもそうした経路を辿って第一線で活躍した選手が何人かいる。近年の代表例がマルコス・アロンソだろう。彼はカンテラ時代に二度に渡りふるい落とされた経験があるが、レンタル先のアダルベでのパフォーマンスが評価されて復帰を果たし、1試合ながらトップチームでプレーした経験もある。その後、ボルトンやフィオレンティーナを経由し、16年夏にプレミアの強豪チェルシーに移籍し、左SBとして活躍を見せてきた。

 ピピが現在、プロの世界に足を踏み入れるかどうかの重要な時期に差し掛かっているのは間違いないし、その1年目に期待通りの成長を見せることができていないのも事実だ。ただ、短期間のうちに見違えるような変貌を遂げるのもこの年代の選手の特徴である。将来、マドリー、あるいはラ・リーガでプレーする夢を実現するには一層の奮起が必須だが、巻き返しのチャンスはまだまだ残されている。

取材・文●セルヒオ・サントス・チョサス(アス紙マドリー番)
翻訳●下村正幸