シーズン途中で監督に就任したキケ・セティエンにとってタイトル獲得は非常に大きな結果です。バルセロナの最大の目標はチャンピオンズ・リーグ(CL)の優勝なので、彼がこのまま指揮する時間を延ばせるかどうかは、このタイトル獲得にかかっている、といっても過言ではありません。

 ただ、そのCLでの戦い、さらにはこれから数年というスパンでチームを見つめると、やはり「メッシ問題」から目をそらすことはできません。

 なぜならリオネル・メッシが影響力を及ぼせる範疇の相手、つまり格下なら数多くのゴールやチャンスを生み出せますが、対戦相手のレベルが上がるほど影響力を発揮できる領域が狭まるため、マイナス面が浮き彫りになるからです。特にバルサの場合は、守備面でメッシの代わりに動ける選手が必要になります。

 CLを勝ち上がってくるトップ・トップの相手に対しては、メッシですらプラスαを出せる領域が少なくなりますし、どうしてもその運動量の少なさを補填する選手との組み合わせが必須になります。

 つまり、チームとして「メッシのプラスαの発揮どころ」をどこにするか定めない限り、僕は「CLのてっぺんには上り詰められない」と思っています。
 
 メッシのプラスαが「勝利につながる仕事」であるのは間違いありません。彼がゴールを奪えなかったとき、効果的な攻撃を演出できなかったときはチームが通常時の試合とは別展開になるのは必然です。その分、別の機能が働かなければ勝利が見えてきません。

 残念ながら現在のキケ・セティエンは“ベター”なチームづくりにとどまっていて、ベストなチームづくりにはたどり着いていません。攻撃時の基本システムとして「2-1-4-1-2」というメッシとセルヒオ・ブスケッツをひし形の頂点と底辺に据えた今のバルサでは、ベターな「再現性」は生み出せていても、メッシ以外の選手たちでゴールを奪い切るところまでには至らない。再現性を生み出そうとすると、現代サッカーにおいてポジショナルプレーは大切なポイントです。

 自粛期間中、さまざまな本を読んで勉強しましたが、プレーエリアの制限はポジショナルプレーを実践する上で必要不可欠な条件です。その代わり、プレー機会が回ってきたときは100%の力を発揮することが大事なポイントです。バルサの攻撃には立ち位置をある程度守る我慢が必要で、メッシも右サイドに張っているシーンもありますが、若い頃のような推進力を現在は発揮できるわけではありません。

 ロナウジーニョがいた時代、彼が左サイドで作り出したタメ(時間)がある状態でメッシにボールが回ってきたときにグイグイとボールを前進させていました。しかし、今はすでに33歳です。あの時代のように1対1でどんどん抜け出していく姿をメッシに求めてはいけないんです。
 
 メッシに限らず、これはバルサのメンバー全体に言えることですが、純然たる1対1をやったらダメだということです。

「11分の1対11分の1」ならいいけど、「1対1」の個人の力比べをしたらバルサの選手は非常に難しい。アンス・ファティも、ジョルディ・アルバも、アルトゥールも、フレンキー・デ・ヨングも…。自分以外の他の10人を使いながら戦うのはうまいんです。でも、たとえばマドリーのような「サッカーIQ+アスリート能力も高い」選手と1対1になったときに剥がせないんです。たとえメッシであっても一番プレッシャーのあるエリアの1対1は、プレスバックの挟み込みもあるので厳しい!

 彼は複数の守備に囲まれた、守備が判断を迷う状況の中でプレーすることに秀でた選手です。複数の選手たちが密集した中で守備者が判断を見誤る状態を起こし、そこを突くのがとてもうまい。一般的な選手なら難易度の高いプレーを、彼はいとも簡単にやってのけます。僕も試合を見ていて「そのプレーは難易度が高いでしょ」と思いますが、彼の中では「難易度が低い」からスーッとやってしまうんです。自分に合った、楽なプレーなんでしょうね。

 相手の状況や状態に応じて立ち位置も調整できますから。現状、メッシを右サイドに据えてサイドの相手と常に1対1でマッチアップさせる状態より、トップ下で相手の混乱で隙を付ける環境に置いたほうが生き生きしています。彼が自由に動き、中盤のひし形がローテーションしながら最終的にメッシがペナルティエリアに侵入していく攻撃は効果が高いです。
 
 斜め(ダイアゴナル)の角度でペナルティエリアに入り込んだり、さらにそこに味方の動き出しがセットアップされたりしてゴールを襲っていく形が、現在のメッシのベストな使い方だと思います。ただし、こういう攻撃が確率高く行われるのは格下だから「CLを戦うときにどうするか?」という問題があります。

・ポゼッションが必要 
・立ち位置が重要
・メッシがボールを持ったときのセットアップが大切

 CLではボールに絡む数も減るから「メッシなしで再現性をどう生み出すか?」を、フロントが考えて判断しないといけないところです。

 当然チームを作るのはキケ・セティエンだから、彼が監督として実践できるのかを含め、冷静に考えて動かないといけないところです。僕は今シーズンの試合を見直し、そこをあらためて見つめて「キケ・セティエンが率いる今シーズンのバルサではCLのタイトルを獲れない」と思いました。
 
 向こう数年で「メッシ起用」に関する問題は絶対に起こります。

 ただメッシを使わない選択肢は、誰が監督であってもないはずです。僕の意見は、今後のバルサを考えると「流れの中で中盤に下りてくる」ことを前提にチームを作ったほうが良いと思っています。

 そのためには「よりゴールを奪えるウイングタイプの選手獲得」が必須条件ですし、バルサがより良い勝ち方をするためには、CLクラスの大一番でゴールができる選手を獲得しなければいけないでしょう。メッシはC・ロナウドのように肉体的なフィジカルに長けているわけではありませんから、ワンタッチゴーラーに進化するとは考えにくい。
 
 やはり後ろからゲームを作りながら最終的にペナルティエリアに入ってゴールを決める選手です。要するに、メッシのフィニッシャーとしての能力は二次的な部分です。彼は中盤でのゲームの作り出しとゴールの両方を成り立たせている選手で、少なくとも今後十年くらいは一人で二つをまかなう選手を発掘しようとしても解消できないレベルにあります。

 だとすると、中盤のつくりについては他の選手との組み合わせなどで何とかなる。メッシほど崩せる選手はいないにしろ、似たようなことができるプレーヤーは彼と組ませることで育たなくもありません。だから、メッシ以外の選手できっちりファーストオフェンスを成立させられるようにチームを作り、彼は二次的な攻撃要素に入れて考えていたほうが現実的な気がします。

 そうなるとシャビやアンドレス・イニエスタを生み出せるのかという話になりますが、似たような選手は定期的に出てきています。もちろんトップ経験が必要だから、そこで化けられるかどうかがハードルとして存在します。しかし、バルサは育成した選手をどう伸ばしていくかを見直すべきだと、感じています。

 バイエルンのチアゴ・アルカンタラのような選手を育てておきながら、外に出してしまった。彼がシャビやイニエスタの間合いでパスもドリブルも突破もいろんなシーンで活躍しているところを見ていると、非常に貴重な選手だったと思いますし、「メッシの近くでプレーしたら」と想像するだけでワクワクします。
 
 年齢的にも、メッシが今後クラブにもたらすモノと時間はそう多く残されている訳ではありません。

 だから、フロントはメッシときちんと話し合いを持つべきです。彼が「どんなビジョンを持っていて、どんなサッカーがしたくて、どんな歩みをしたくて……」みたいな話を寄り添いながら行ない、クラブとして助けて欲しい部分、残してほしい部分を伝え合う時間を持つべきです。

 メディアでは「メッシとフロントが揉めている」みたいなニュースが飛び交いますが、もし事実ならそんな時間はもったいない!

「メッシ問題」はクラブにとってそんなチープな話では片付きません。だからこそ僕はキケ・セティエンを選んだところから「?=疑問符」を投げかけたんです。個人的には、シャビが監督をやるべきだと思っていますから。今のバルサではCLを獲れるとは思わないし、サポーターもフロントもバルサでの監督経験の時間を与えることを容認できる唯一の存在がシャビだからです。
 
 監督として采配を振るってフロントやサポーターが我慢できる存在はシャビ以外に考えられない!

 監督(シャビ)と選手(メッシ)が一緒にクラブの将来を探すことが正しいかどうかわからないけど、その監督がシャビであれば致し方ない気がします。今後、バルサがどうレガシーを作っていくかはシャビと作るべきですし、その隣にカルレス・プジョールのようなレジェンドがいるのはさらに理想的です。メッシが信頼している人材を選ぶんです。

 それがアルゼンチン代表のようなその場しのぎの人材選びではなく、チームのビジョンを描いていくためにメッシに対して発言ができる人材を選ぶことは重要ではないか、それがメッシと信頼関係を構築していける監督ではないかというのが僕の意見です。ここが整理されないと、CLのてっぺんには立てないでしょう。

 メッシがピッチ上で見ている感性の共有が大事なのだと思います。同じ瞬間に同じものを見て、同じことを感じ取れる選手がたくさんいた瞬間がペップ時代のバルサでした。ピッチ上で同じビジョンを持てる瞬間は本当に少ないですからね。それが最も難しいことです。

 でも、そろったときは美しく、そして結果も伴います。

 今のバルサの選手が実践している認知力はチームとして成熟度を上げることが難しい。なぜなら戦術なのか、メッシなのかという問題を常に抱えているからです。もう少し詰めた言い方をすると、認知した瞬間から状況が変わる中でそれを調整する領域が入ってきます。現状のバルサはその調整する領域で迷いが生まれ、活躍できていない選手が多いです。

 認知、調整、実行という過程があると、実行は技術だからバルサに所属する以上は問題ありません。

 しかし、オフ・ザ・ボールの認知と実行までの調整力は僕が見ていてそろっていませんし、ここに不具合が起こっているように感じます。これがバルサでプレーする難しさであり、メッシを抱える難しさです。

 これがレアル・マドリーなら結果さえ出ていれば批判の声は抑えられます。それに多少のズレや不具合はアスリート能力でなんとかできる選手が多いし、それがマドリーという戦術を度外視したチームだったりもします。チームの後ろにあるもの、バックボーンが違いますから。

 だから、フロント陣のお手並み拝見ですね。

 キケ・セティエン就任以降のバルサの戦いについては、次回の戦術コラムで解説しますのでお楽しみに! 

分析●安永聡太郎
取材・文●木之下潤

【分析者プロフィール】
安永聡太郎(やすながそうたろう)
1976年生まれ。山口県出身。清水商業高校(現静岡市立清水桜が丘高校)で全国高校サッカー選手権大会など6度の日本一を経験し、FIFAワールドユース(現U-20W杯)にも出場。高校卒業後、横浜マリノス(現横浜F・マリノス)に加入し、1年目から主力として活躍して優勝に貢献。スペインのレリダ、清水エスパルス、横浜F・マリノス、スペインのラシン・デ・フェロール、横浜F・マリノス、柏レイソルでプレーする。2016年シーズン途中からJ3のSC相模原の監督に就任。現在はサッカー解説者として様々なメディアで活躍中。