今年1月、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長は就任2年間でバルセロナをラ・リーガ連覇に導いたエルネスト・バルベルデ監督の解任に踏み切った。大半の主力選手からお墨付きを得たことに勇気づけられての決断だったが、問題は後任のメドが立っていなかったことだ。

 実際、現在それぞれアル・サッドとオランダ代表を率いるシャビとロナウド・クーマンに就任の打診をしたが、いずれもあっさりに袖にされた。

 続いて候補に挙がったのがマウリツィオ・ポチェッティーノだ。しかしOBでもあるライバルクラブのエスパニョールへの恩義からバルサの監督になることに対してかねてから否定的な見解を示しており、これまたあっさり断念に追い込まれた。

 そこで消去法で急遽浮上したのがキケ・セティエンだった。ビッグクラブを率いた経験はないが、ヨハン・クライフの信奉者として知られ、ラス・パルマスやベティスで攻撃的なサッカーを実現させた実績もあった。

 こうしてセティエン・バルサが誕生したわけだが、クラブが彼に期待したのは、調整型のバルベルデになかったマンネリ化したチームにメスを入れる手腕だ。キケ・セティエンも就任早々、「フットボールの内容が良くなることを約束する」と高らかに宣言していた。

 ただ同時に自らの立場を明確にすることも忘れなかった。

「わたしが(リオネル)メッシや選手たちに憧れを抱いているのは事実だ。ただそれと監督として接することはまた別の話だ。彼らにもそのことははっきり伝えている」
 
 そして練習初日にちょっとした驚きの出来事が起こった。ミニゲームでキケ・セティエンは、メッシに10番のビブスを着用するよう命じた。しかし、もうずいぶん前からこうした形の練習では、メッシは“ジョーカー”としてボールを保持する側のチームでプレーすることがバルサでは通例になっている。ビブスを手にした彼は、憮然とした表情を浮かべていた。

 それから半年近くが経過し、監督と選手たちとの間で緊張が高まっているのはもはや公然の事実だ。チームスタッフに印象を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「どう説明すればいいって言うんだい。選手というのは賢く振る舞うことを知っている、周囲の人間の能力を冷静に見極めていく。監督についても解決策を提示し結果が伴えば、何も起こらない。問題はその現象が見られないときだ」
 
 パスの本数が1000本を超えた初陣のグラナダ戦(1−0)を経て、セティエン・バルサはラ・リーガではバレンシア戦(0−2)とレアル・マドリー戦(0−2)、コパ・デル・レイではアスレティック・ビルバオ戦(0−1)と強豪相手にことごとく苦杯を喫した。チャンピオンズ・リーグ(CL)でもアウェーのナポリ戦で引き分け(1−1)に持ち込むのが精一杯だった。ラ・リーガで首位をキープしていたが、試合内容はどこか煮え切らなかった。

 そんな状態が続く中で新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けすべてのコンペティションが中断となった。そしてこの期間、キケ・セティエンは立て続けにメディアの取材を受けた。個別インタビューのNGを貫いていた近年の歴代監督とは対照的で、そこでセティエンは「ロンド(パス回し)にも参加している。わたしはワーストプレイヤーではないよ」と自慢げに語った。

 本人にはまったく悪気はなかったのだろうが、選手たちは指揮官のこの発言に眉をひそめた。
 
 さらにCL制覇に燃える指揮官は、「チャンスはある」と手応えを覗かせると、メッシがすかさず、「人それぞれ意見が異なるのは不思議なことではない。ただ僕はもう何年もCLでプレーする幸運に恵まれている。その経験から言わせてもらうと、いまのプレーを続けていては、優勝できるとは思えない」とすかさず反論した。

 過去4度ビッグイヤーを獲得しているメッシに対し、キケ・セティエンがこれまでこの欧州最高峰の大会で指揮した試合は前述のナポリ戦のみだ。

 そして再開後、メッシの予言が的中するようにバルサは首位の座をマドリーに引き渡し、キケ・セティエンは、選手たちやクラブ幹部、さらにはスタッフの信頼まで失う結果となった。幹部のひとりが「バルト(バルトメウの愛称)は人選ミスを犯した」と非難すれば、ある選手はこう不満を露わにする。

「エルネストの時はポジティブなこともネガティブなこともあった。でもキケ・セティエンが監督になってからは、ポジティブだったことがなくなり、ネガティブだったことがさらに悪化した」
 ただクラブ内には「選手全員がキケに異を唱えているわけではない。実際エルネストの時に比べると、練習の密度は濃くなっている」と擁護する意見も存在する。

 しかも、就任当初の腹の探り合いから冷戦状態を経て、最近は、対立が表沙汰になっている。セルタ戦直後にもルイス・スアレスがセティエンを含めたコーチングスタッフを突き放す発言をしたばかりだ。

 しかしその一方で、セティエンは故障明けにも関わらず、ルイス・スアレスを優先的に起用し続けている。ここ数試合その犠牲になっているのがアントワーヌ・グリエーズマンで、古巣のアトレティコ戦ではラスト5分間しか出番が回ってこなかった。試合後かつての愛弟子のこの扱いについて、敵将のディエゴ・シメオネは「ノーコメント」と意味深なリアクションを見せている。

 セティエンは今後もチームを率いる意欲を見せ、フロントも解任する考えがないことを強調している。ただバルトメウの言葉に何の保証もないのは過去の出来事が示している。

文●ファン・I・イリゴジェン(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸

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