バルセロナは2019-20シーズンの決算を締める前日の6月29日に移籍金7200万ユーロ(約90億円)でアルトゥールのユベントスへの売却を発表した。

 代わりに同じくユーベから6000万ユーロ(約75億円)でミラレム・ピャニッチを獲得。赤字決算を回避するために“補填”の意味合いがあった実質交換トレードといえるこの一連のオペレーションは、当事者である両選手に対し、現在それぞれが所属するクラブでシーズンが終了するまで契約を全うすることを要求した。

 しかしチームがチャンピオンズ・リーグ(CL)に向けて再始動したその日に事件は起こった。5日間のバカンスを過ごした選手たちが新型コロナウィルスの検査のため練習場を訪れるなか、アルトゥールだけが姿を見せなかったのだ。事前にSD(スポーツ・ディレクター)のエリック・アビダルにアルトゥールは電話を通じてこう欠席の理由を告げていた。

「試合に出場できないのなら、僕がいてもいなくても一緒だ。このまま契約を解消したい」
 
 移籍発表後、トータル253分に出場し、ユーベのセリエA制覇に貢献したピャニッチとは対照的なアルトゥールのこの行動は、非難されてしかるべきだろう。

 もっとも当初は、アルトゥールもまだやる気を見せていた。実際、移籍が決まった直後にチームメイトたちの前で最後までチームのために尽くすと宣言してもいる。しかし次第にキケ・セティエン監督の態度によそよそしさを感じるようになり、それがフロントの意を汲んだものと考えるようになってからは、もう自分は起用されることはないと決めつけてしまったのだった。

 両者の亀裂を決定的にしたのが、指揮官が記者会見において、「鳴り物入りで入団しても、期待に応えられないまま退団を余儀なくされるというケースは何も珍しいことではない。アルトゥールが最初でも最後でもないだろう。理由はどうであれだ。これから果たして彼が実際にそうなるかは分からないが、他のクラブでも他の選手にも十分に起こりうることだ」と前置きした後、言い放ったこの言葉だ。
 
「監督に就任してから、気になるところを指摘してきたつもりだ。アルトゥールもいろいろ工夫しながら取り組んでもいた。ただ他の監督から褒められていたことを実は改善すべき必要があると理解させるのは簡単なことではない。プレーの継続性がやや不足している面もある。ただ徐々にいい方向に進んでいる」

 これが売却を正当化させるためのクラブのメッセージと受け取ったアルトゥール側は不満を露にした。母親などは「何てことなの?今度は欠点を公にするの!」とSNSで食ってかかったほどだ。このようなリアクションを見せたのは、アルトゥールは当初は移籍に難色を示していたにもかかわらず、クラブから圧力を受けるなか、家族と話し合いを重ねた末に翻意したという経緯も背景にあった。

「今もアルトゥールを戦力として計算に入れている。周囲の雑音に惑わされずに、出番を得た試合でベストを尽くしてもらいたい。同じような状況にいる選手は他にもいる。まだシーズンは終わっていないことを理解しなければならない」
 
 キケ・セティエンはこう説くが、移籍発表を境にトータルの出場時間数がわずか4分(32節のセルタ戦)にとどまっている事実に基づけば、その発言はむなしく響く。

 事ここに至り、アルトゥールは完全にモチベーションを失ってしまった。オサスナ戦(37節)中にはベンチであくびをしているところをテレビカメラに捉えられ、続く最終節のアラベス戦は、指揮官の「足首に違和感があるらしい。今朝そう言ってきたんだ。わたしが話せるのはそれだけだ」という説明付きでメンバーから外れた。

 バルサはもちろんアルトゥールの言い分を受け入れる考えはなく、今後も造反を続けるのであれば、懲戒処分を課すことも検討している。

「クラブに問題をもたらさない選手もいれば、もたらす選手もいる」

 クラブ内にはこんな意見も飛び交っているが、アルトゥールは、マウリツィオ・サッリ監督から変わらず信頼を寄せられているピャニッチと自身の置かれた状況はまったく異なると主張する。両者の考えは平行線を辿ったままで、今回の“造反事件”は起こるべくして起こったと言える。

文●ファン・I・イリゴジェン(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸

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