清水エスパルスのピーター・クラモフスキー監督は、横浜F・マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督のことを「兄のような存在」だと言う。2人はオーストラリア代表やクラブチームで長年師弟関係を続けてきて、2018年からの2年間は横浜の監督とヘッドコーチという立ち位置で超攻撃的サッカーを浸透させ、昨年のJ1制覇に導いた。

 その愛弟子が、今季から初めてクラブチームの監督に就任し、清水で新たなスタイルを構築しようとしている。もちろん、ベースとなっているのは横浜のサッカーだ。

 そんな中で19日に行なわれた11節の一戦で、初めての師弟対決が実現した。果たして両チームのスタイルはまったく同じなのか、それとも清水には清水の独自性があるのか。直接対決だからこそ見えた両者の関係性をレポートしたい。

 試合のほうは期待通りの打ち合いとなり、ボールポゼッションもほぼ五分五分だったが、横浜のジュニオール・サントスが強烈な個の力を見せて2得点し、粘る清水を4−3で退けた。

 そんな90分を通して、両者の相違点として清水担当の筆者が強く感じたのは、「横浜のほうが尖ったサッカーをしている」ということだった。「尖った」という言葉は「先鋭的」と置き換えても良いが、よりアグレッシブな姿勢が強調されていた。

 たとえばキックオフ直後から見えたのは、ディフェンスラインとGKのポジションの差だ。どちらも横浜のほうが明らかに位置が高い。横浜のGK朴一圭(パク・イルギュ)は、自分たちがボールを保持している際には完全にペナルティエリアの外に出て5人目のDFとして機能しており、オフサイドラインに関係なくプレーできるので、ある意味最強のスイーパーとも言える。だからこそDF陣も思い切ってラインを上げることができる。それに比べると、清水のGK梅田透吾はそこまでのリスクは冒していない。

 またディフェンスラインの設定に関しては、清水のほうは2月の開幕時と比べても少しマイルドになっている印象がある。失点を減らせず結果が出ない時期が続いたので、現実問題としてリスクを抑えるための微調整が必要だったのかもしれない。ただ、今後戦術的な完成度が高まってくれば、より高いラインを敷くようになる可能性もあるだろう。

 ディフェンスラインの高さは全体のコンパクトさ、すなわち中盤のスペースにも影響してくるが、決勝点を決めた横浜の渡辺皓太は「試合を通して中盤にけっこうスペースがあったので、そのスペースでボールを受けて、はたいてというのは(交代出場の際に)意識していた」と語る。
 
 猛暑の中で疲労の影響が出始めた後半は、横浜が中盤のスペースを使って主導権を握る時間が増え、バイタルエリアでパスを回す状況が多くなったことが2得点につながった。

 また疲労や運動量という面では、清水の2選手が同様のことを語っているのが興味深い。
「横浜のほうが自分たちより走っていたし、試合のテンポやパススピードが速かった。だから今までにないくらい呼吸が乱れていたし、今までにない高強度のゲームになったと思う」(金子翔太)
「相手のテンポは自分たちより明らかに速かったと思うし、隙あらばすぐにリスタートするとか、自分たちが休む時間もなく、息が切れた状態でサッカーをやることになってしまった。そこは自分たちも狙っている形ではあるし、僕たちがそれをやれるようにしていきたい」(西澤健太)
 チームの合計走行距離は、横浜が123.851kmで今季2番目の数字。清水は117.847kmと少し落ちるが、今季のチーム平均(111.737km)を6km以上越えている。横浜のテンポに引きずられるように清水の走行距離が増えたことが窺える。これも後半で横浜が優位に立てた一因だろう。

 ただ、optaのデータによればデュエル勝率は清水がわずかに上回り(52.8%)、とくにCBヴァウドの強さは光っていた。前半はポゼッションでもやや優位に立ち、シュート数は清水10本:横浜11本。攻撃のコンセプトにも共通点が多い中で、決定機に近い形はむしろ清水のほうが多かった。

 クラモフスキー監督も「ボールを持った時に何をするのか、良いポジションに入っていくことや良いテンポでボールを回すということはできていた」と手応えを口にする。横浜のほうは先発を6人変えていたことによる連係不足もあったかもしれないが、クラモフスキー監督が就任してから7か月という期間を考えると、攻撃に関しては清水が早く成果を挙げ始めていると言えるだろう。

 清水の選手たちも、今の時点で横浜と互角に近い戦いができたことによって「自分たちがやっていることは間違っていない」という信念をより強固にしたはずだ。

 試合終盤にもうひとつ横浜で印象に残ったのは、アディショナルタイムでもまったく逃げ切りに入ることなく追加点を目指して攻め続けていたことだ。リスクを承知で尖ったサッカーを最後まで貫く姿勢は、観ていて気持ち良かった。

 今の清水はリードした試合でもそこまで徹底できていないが、クラモフスキー監督はそうした姿勢を好む指揮官だ。まだ成長過程の清水が、これから横浜とも異なる独自の「尖り方」を見せ始めたら、アイスタでの観戦はより楽しいものになるはずだ。

取材・文●前島芳雄(フリーライター)

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