21歳のレフティが、過酷な連戦をフル出場で戦い続けている。

 超過密日程を睨み、「全選手の力が必要だ」と話していたフェルナンド・フベロ監督は、ここ数試合、前の試合から半数以上のメンバーを入れ替えるターンオーバーを採用。直近の水戸戦もスタメン7人を前の新潟戦から入れ替えた。しかし唯一、伊藤洋輝だけは再開後の17戦で一度も先発を外しておらず、試合途中でベンチに下げることもない。

「貢献度が高いからだ。どのポジションでもしっかりとプレーをしてくれる。まだ若いので試合に続けて出られる」と、指揮官。本職はボランチだが、3節にCBにコンバートし、3バックでも左のCBを任せ、4バックに戻した新潟戦、水戸戦では、伊藤自身が「初めて」という左SBで起用した。

 今季それまで4人の選手が試されてきたがレギュラーを確保したと言える選手がいない左SBは、チームの懸案であり、サイド攻撃を強みとして標榜するフベロ・サッカーにおいて攻守に重要な役割を担うポジションでもある。山本義道の加入でCBの層が厚くなったことを受け、未経験の伊藤を左SBで起用したことにも監督の信頼と期待の高さがうかがえる。

 スコアレスドローに終わった水戸戦、試合終了のホイッスルが鳴ると、伊藤はピッチに膝を突きしばらく動けなかった。整列のために立ち上がったのは、倒れこんだチームメイトの中で最後だった。

 開始2分の伊藤のヘディングシュートは惜しくもバー。その後も磐田の決定的なシュートはポストやバーに嫌われ、終盤に伊藤が放ったピンポイントクロスからの小川航基のシュートも枠外。倒れ込んだ伊藤からは、勝ち切れなかった悔しさとともに、溜まっているだろう疲労が見て取れた。

 だが、試合でのパフォーマンス、プレーの強度は落ちてはいない。疲れにのみこまれることなく、この日も最後まで集中を切らさずに攻守に奮闘した。
 
 サイドの幅を使った攻撃を展開する磐田への対策として、守備時は5バックとなる3バックを採用した水戸に対し、磐田は立ち上がりから相手のウイングバックやハイラインの裏を突いてチャンスを作ってペースを掴み、ボール支配で相手を上回り試合を進めた。その中で、伊藤はハードな上下動を厭わずに左サイドを駆け上がり、攻撃参加を繰り返した。

 伊藤の1試合平均ロングパス本数はここまでリーグトップの数字。左足に備えたキックの威力と精度の高さは群を抜いており、この日は水戸に警戒されてなかなか出せなかったが、強気に繰り出す縦パスや、機をとらえ経由地をひとつふたつ飛ばして、後方から一気にサイドを変えて敵守備を揺るがすサイドチェンジは、磐田の大きな武器だ。

 1試合のパス本数も伊藤がチーム最多を記録し続け、水戸戦も84本で1位。いかに足を止めずに味方ボールホルダーに顔を出しているか、いかに最後方の組み立て役として機能しているかが分かるが、SBとなってからは、加えて自身が攻め上がるプレーが増えた。水戸戦も、左サイドハーフの大森晃太郎がボールを持つと必ずその裏を回り、ときには大森と立ち位置を入れ替えながら攻撃の起点となるべく敵陣に攻め込んだ。

 連勝を目指し選手交代で攻撃に人数をかけた試合終盤はオープンな展開となり、水戸の反撃を浴びたが、伊藤は身体を張ったシュートブロックで再三決定的なピンチを跳ね返した。タフネスと闘う姿勢だけではなく、味方に声を飛ばし、身振り手振りで指示をする姿は、ピッチの中では最年少とは思えない風格を帯び始めている。
 
「一番後ろからだけど、守備から攻撃まで関与できればいいと思います。自分としては守備も最低限のことはできてきていると思う。やりながら、自分でいろいろ理解し、学びながらやっていきたい」

 ボランチからCBにコンバートされた数試合後、伊藤はそう語っていた。そのときどきに与えられた環境で、変化を厭わずに多くを吸収できることは、磐田のキーマンになりつつあるレフティに備わった才能のひとつだろう。

 チャンスの端緒となる縦パスを、伊藤は昨季所属した名古屋の風間八宏監督(当時)の下でさらに磨き、球際の強さやタフネスを、その後に名古屋を預かったマッシモ・フィッカデンティ監督に要求され身につけたと言う。そして、今季4つ目のポジションとなる左SBをこなした水戸戦の後、若きレフティはこう話した。

「90分間走っているので疲れはありますが、その中でどれだけ良いプレーができるかが大事。もっとクオリティの高いものを自分自身に求めていきたいと思います。SBは初めてなので、練習の合間や空いた時間にヨーロッパの色々な選手を見ながら勉強しています。

 大森さんとも話しながら上手く良い連係を作れていると思うので、左サイドからもっと崩せるように、活性化できるように頑張りたい。監督はいろいろなポジションで使ってくれていて、期待というのは感じていますし、それに応えてチームの勝利に貢献したいと思います」

 目標は、欧州で活躍すること。疲れとも戦いながら、新たな役割に取り組み、闘い続ける伊藤を見る者は今、熱い鉄が叩かれて強靱な鋼に仕上げられるように、将来欧州で活躍する名手が、厳しい環境で鍛練し、強く逞しく進化する様を見ることができているのかもしれない。

文●高橋のぶこ

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