前半戦の主役だった柏のオルンガに、実にJ1の11クラブがゴールを決められた。怪物FWを無得点に抑えたクラブは、FC東京、横浜FC、川崎、大分、広島の5クラブ(清水戦は欠場)。そのうち、広島を除く4クラブが対戦した時のオルンガの状態は、リーグ再開直後や遠方のアウェー2連戦だったこともあり、明らかにトップフォームではなかった。反面、柏対広島(△1−1)の17節は前節から1週間空いた。つまり、“ベストコンディション”のオルンガ封じで、広島は今季のJリーグで最高の出来だったと言えるだろう。

 得点ランクトップのストライカーをノーゴールに抑えた最大の立役者は荒木隼人だ。

「対峙する選手が得点王のオルンガ選手。いろんな場所からシュートを決めていたので、まずはなるべくシュートを打たせないことを意識してプレーしました」

 荒木の頭の中はよく整理されていた。象徴的だったのが58分や64分の1対1。オルンガに縦パスが入ると、荒木は無暗にフィジカルで勝負せず、オルンガがターンしてきたら力を使い、自由を与えなかった。このようにオルンガの仕掛けを見極め、その瞬間にパワーを出すシーンは多かった。食いつき過ぎたら交わされるのは自明の理で、例えばハットトリックを許した仙台DFはまんまとやられた典型例だろう。
 もうひとつ、荒木の守備で良かった点は、オルンガを常に視界の中に収めていたことである。DFとしては当然すぎるセオリーなのだが、それをできていないDFは残念だがJリーグに多い。実際にオルンガの得点シーンを振り返っても、クロスで背後を取られてヘディングされたり、膨らむ動きで裏へ抜け出すオルンガを捕まえられないDFはかなりいる。それはケニア人FWの身体能力が高いから対応できなかったと見るべきではない。

 理由は荒木の守備を見ればよく分かる。広島の23番は、常に自分の近くにオルンガを置き、首を振って怪物FWを視界に収めた。柏の攻撃は横に揺さぶってくることも特徴のひとつだが、ボールの位置に応じてポジショニングと身体の向きを何度も修正。とにかく準備が良いから、荒木がオルンガに背後を取られるシーンはほぼなかった。

 荒木が披露した極上の対人守備は、今季に“オルンガ封じ”にチャレンジしたJリーグのDFたちのなかで、最高の出来だったと言えるだろう。実際に城福浩監督も「よく耐えてくれた」と称賛。大卒ルーキーだった昨季にA代表に招集されたほどのポテンシャルは、やっぱり本物だったと改めて感じた。
 褒めちぎりたいところだが、残念ながら1失点しているDFを手放しで称賛はできない。

 柏戦の失点シーンは、オルンガに縦パスが入り、荒木が対応。ポストプレーをされて江坂任にボールが渡ると、その隙に北爪健吾に最終ラインの裏を突かれてスルーパスが供給され、そのままネットを揺らされてしまった。

 確かに荒木はオルンガに起点を作らせてしまったが、前述したとおり潰しに行けば交わされるリスクがあるので、対人守備の対応の仕方になんら問題はなかった。そもそも、育ちが違うアフリカ人FWにフィジカル勝負を挑めば自滅するのは明白なので、荒木がポストプレーをさせてしまったことは論点にするべきではないだろう。

 課題を挙げるなら指示だ。失点シーンでは、佐々木翔が呉屋大翔と北爪を見る数的不利の状況に陥っていた。その瞬間、呉屋は荒木の近くに流れてきたので、佐々木に「呉屋は俺が見るから北爪に行け!」というような指示をしていれば、もしかしたら防げた可能性は高まっていたのかもしれない。マークの受け渡しは極めて重要で、その対応を誤ると、特にパスサッカーを志向する相手には簡単に崩されてしまう。
 課題克服の期待はできる。なぜなら荒木は吸収力の高い選手だからだ。オルンガを封じた対人守備の仕方も、昨季に磐田のルキアンや札幌のジェイと対峙した際のミスから学び、「これまでの経験から」会得したものである。毎試合、自己分析し、周囲のアドバイスに耳を傾け、練習して、再びチャレンジ。真摯にその繰り返しをしてきたから、成長スピードが早い。

 指示についても、成長の跡はある。

「入団当初は城福監督に『もっと喋れ!』と言われていました。ちょっと減ってきましたけど、『もっと出せる』と監督に言われています」(昨年9月のインタビューにて)

 昨季に比べると、今季は徐々に上記写真のような指示する姿を見れるようになってきた。課題克服のために意識していることは窺えるが、柏戦の失点シーンのように、指示にも緻密さを求めるならば、まだパーフェクトではない。

 あえて繰り返すがオルンガを封じた荒木の対人守備は本当に素晴らしかった。ただ、むしろ着目すべきは当の本人が柏戦をどう振り返り、次節につなげるのか――。伸びしろ十分の若手DFを評価し、手放しで称賛する記事を書くのは、期待も込めて次節以降にとっておこうと思う。

取材・文●志水麗鑑(サッカーダイジェスト編集部)