もはやカップ要員でさえないのか。イングランド代表MFがまたしても、ベンチ外の憂き目に遭った。

 現地火曜日に行なわれたイングランドのカラバオカップ(リーグカップ)ラウンド・オブ16、トッテナム・ホットスパー対チェルシーの一戦。中1日の強行軍を強いられたスパーズは土曜日にリーグ戦を戦ったスタメンから8名を入れ替えて臨んだが、長きに渡ってチームの中軸を担ってきたデリ・アリはベンチメンバーにさえ入らなかった。

 今季のアリは、ここまで公式戦5試合を戦ったトッテナムにあって、わずか2試合に出場したのみだ。プレミアリーグ開幕のエバートン戦で先発を飾ったものの前半45分間で交代を命じられ、あとはヨーロッパリーグ予選の1試合でプレーしている。

 かねてからアリに対して不満を持っていたジョゼ・モウリーニョ監督だが、もはやその確執は隠しようがないほどだと、英紙『The Sun』は指摘。「いかにしてモウリーニョとアリは破局したのか」と題して、事の発端についても掘り下げている。

 欧州フットボールシーンで現在、大きな話題を集めているのがひとつのドキュメンタリー番組だ。アマゾン社が制作した「All Or Nothing」で、フットボールクラブの内部深くにカメラを持ち込んで真の姿をあぶり出すリアリティー番組である。新たに9月頭からリリースされたのがトッテナム版。昨年11月のモウリーニョ新政権発足時からの動向を追った内容で、名将のチームマネジメントの真髄が浮き彫りになっている。

 そのなかで、就任当初にモウリーニョがミーティングで選手たちに語りかける場面がある。そこでポルトガル人指揮官はアリに向かって「君はとんでもない怠け者だ!」と罵声を浴びせた。突然の批判にアリは困惑の微笑を浮かべたが、その数日後にもふたたび「よく分かった。なんて怠け者だ!」と評され、仲間たちの前で槍玉に上げられたという。

 モウリーニョは番組内で次のように回顧している。

「デリに訊いたんだ。君はデリなのか、それともデリの弟なのかと。彼はデリだと言った。オッケー、だったらデリのようにプレーしてくれよとね」
 
 そしてドキュメンタリーでは、モウリーニョがダニエル・レビー会長の部屋を訪れ、アリについての所見を述べる場面も収録されている。そこで指揮官は「デリに直接言いましたよ。君は真面目に練習に取り組んでいないと。災害ではないが、ハリー・ケインでもないともね。ケインは非常に熱心に練習をしていますから」とぶちまけた。

 同時にモウリーニョは、かつてマンチェスター・ユナイテッド時代にサー・アレックス・ファーガソンがアリを高く評価し、「彼を獲得すべきだ」と提案された事実もレビー会長に明かしている。特大のポテンシャルを持っているのに力を発揮し切れていない──。そこにもどかしさを感じ、モチベーションを喚起させる意味で、モウリーニョはアリに“愛のムチ”を振るったのだろうか。

 実際にアリは大いに期待に応え、モウリーニョ政権発足からの4試合で3得点・3アシストと出色の出来を披露した。
 今年4月11日、アリの24歳の誕生日にはモウリーニョが駆けつけて祝福している。それぞれの自宅が歩いて5分の距離にあり、コロナ禍にあってモウリーニョがみずから足を運んだという。信頼関係に揺らぎはないように映るが、『The Sun』紙は「アリのなかには鬱積した思いがあった」と推測している。

 モウリーニョはドキュメンタリー内でアリを呼び出し、次のようにも語りかけている。

「継続性があるか、調子に波があるかでは巨大な違いとなる。トッププレーヤーになれるかなれないかの境目だ。MKドンズからトッテナムに入団し、イングランド代表にまで一気に到達した。よくよく考えなければいけない。なにが大事かは自分で気づくしかないんだ。私は君に毎試合マン・オブ・ザ・マッチになってくれとも言わないし、毎試合ゴールを決めてくれとも言わない。ただ、後悔だけはしてほしくない。時が経つのは早いんだぞ」

 新型コロナウイルスの影響によって4か月の中断を強いられたプレミアリーグ。再開後のアリは怪我もあったが出場機会が激減し、プレシーズンから新シーズンに至る過程においても、モウリーニョの評価は上がってこなかった。それでも開幕のエバートン戦でスタメンに登用されたが、45分間でお役御免となっている。

 この状態が続けば、アリのイングランド代表でのキャリアも途絶えてしまうだろう。パリ・サンジェルマンなど欧州列強で獲得に乗り出しているクラブは複数あるが、モウリーニョ監督は「私とデリの関係に問題はない。スカッドを決めるのはパズルのようなもの。メディアが騒ぎすぎだ」と釘を刺し、その可能性をやんわりと否定した。

 はたして24歳MFの前途はどうなるのか。移籍期限の10月5日までに急転直下のアクションはあるのか。『The Sun』紙は「彼らふたりは愛のダンスで、まだ何度かのツイストやターンを披露してくれるだろうか」との問いかけで締めくくっている。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部