ルイス・スアレスがバルセロナからアトレティコ・マドリーに移籍した。ラ・リーガにおいて今オフ最大のトレード劇の是非については様々な意見が出ているが、これは双方にとってポジティブなオペレーションだったと言えるはずだ。

 確かにバルサ側から見れば直接のライバルに塩を送った面は否めないかもしれない。ただ近年のバルサはルイス・スアレスが前線に君臨することによって戦い方が制限されていた部分があり、その重しを取ることができたという視点から言えば、必ずしもマイナスばかりではないだろう。実際、ビジャレアル戦でアンス・ファティがMVP級の活躍を見せたのは、スアレスが退団したことによりチーム内での重要性が増したことと決して無関係ではないはずだ。

 リオネル・メッシももちろんその影響を受けた1人だ。いや、彼の場合は最良のパートナーを失ったのだから、その度合いは誰よりも大きい。この日はファルソ・ヌエベ(偽のCF)として起用されたが、今後メンフィス・デパイ(リヨン)とラウタロ・マルティネス(インテル)にターゲットを絞って獲得に動いている前線の補強に成功すれば、状況はまた変わるかもしれない。

 この一戦で2人とともに攻撃を牽引したのがフィリッペ・コウチーニョだ。ロナルド・クーマン監督の信頼も厚く、本職であるトップ下としてプレーした。
 
 ビジャレアル戦で明らかになったもう一つの事実は、クーマン監督がサイドの選手には純粋なウイングよりも得点力のあるFWタイプを好むこと。そしてそのプロフィールに見事に合致しているのが他でもないアンス・ファティで、この日はFW、MF、DFとポジションを問わず周囲の選手と好連携を見せ、決定力に加えコンビネーションプレーにも優れていることを示した。

 一方、逆サイドを任されたアントワーヌ・グリエーズマンは、その器用さ、ハードワーク、守備力、マークを外す動き、深さを作るプレーといった表面に現われにくい泥臭い仕事ができる点を指揮官は高く評価しているが、相変わらずメッシとのコンビが機能しなかった。バルサの選手の中に混ざるとそのプレーはどこか融通が利かない面もあり、アンス・ファティとのコントラストは明らかだった。
 
 ともあれ4−0というスコアが示すように、この日のバルサはポジションチェンジを織り交ぜながら、縦に速く、深みを確保する攻撃ができていた。足下よりスペースへのパスが効果的に決まっていたのがその何よりの証で、そしてそれを率先して実践していたのがアンス・ファティだった。

 守備面でもメッシを除いた全選手がプレスとリトリートに奔走し、これもまたスアレスを含めた2人が攻め残っていた昨シーズンと変化した点だ。

 ただラインが間延びしてしまう悪癖は依然として見受けられ、チームの心臓部を担うセルヒオ・ブスケッツとフレンキー・デヨングの両ボランチがボールロストを犯すシーンも少なくなかった。

 もっとも、これもボールキープ力に優れるミラレム・ピャニッチが入れば、改善する希望はある。後半途中にはペドリやフランシスコ・トリンカオといった若手も出場。チーム全体のコンディションも上向いている様子で、各選手がこれまで以上に戦術に忠実にプレーしていた点も含めて随所にクーマン監督の指導の成果が伺えた。

 近年のバルサは、重鎮選手たちが監督の能力を見定めている印象が強かったが、自らアクションを起こせるクーマンの就任により立場は逆転した。今後は、監督が各選手のパフォーマンスを見極めた上で起用法を考えるという正常な形に戻るはずだ。

 この日はアンス・ファティの積極的なプレーが、メッシを感化させた印象すらあった。エースに極度に依存する旧チームのサイクルはリスボンでの歴史的大敗で終わりを告げたのだ。若手の成長と新戦力の加入による新たな化学反応と異なったプレーモデルを引っ提げてクーマン・バルサが幸先の良いスタートを切った。

文●ラモン・ベサ(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸

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