試合中の交代人数が、緊急的に変更された。コロナ禍の影響で、3人交代が原則だった試合は、スケジュールの過密化による体力面を考慮。2人増えて、5人交代が可能になった。

 この変化は、小さくない。

 5人交代は、フィールドプレーヤーを半分丸ごと変えられることを意味している。それは、ほとんど違うチームになるだろう。どこかの段階で、Bチームを敵にぶつけることができる。試合は、総力戦、物量戦の傾向を強めることになった。

 言い換えれば、戦力的に優位なクラブが結果を出しやすい。疲れ切った相手を、援軍によって滅多打ちにできる。交代枠は同じでも、戦力差がより表れることになるのだ。

 それは、サッカーというスポーツの根底を揺るがしかねない。

 サッカーの醍醐味の一つは、ジャイアントキリング(大番狂わせ)にあるだろう。他のスポーツよりも、強い者が弱い者に足をすくわれる確率が高い。その勝負の痛快さが、庶民の間で人気を高める要素になった。何が起こってもおかしくない、という戦いはスリリングである。金を持った恵まれたものが強い、という日常にある原則を破ることで、ドラマも生まれるのだ。

 1990年代まで、サッカーの交代は2人までだった。つまり、最初にピッチに立つ選手が勝負を決める割合が高かった。高いモチベーションで挑むことによって、強者の隙をついて、動揺しているうちに仕留める。そうして、波乱が生まれたのだ。

その後、3人まで交代枠は増やされながらも、どうにか均衡を保っていた。しかしコロナ禍による特別措置によって、バランスが崩れかけている。

「出場選手の負担を減らすため」

 そうした説明で、現場でも好意的に受け入れられたようだが、今後は格差が出るだろう。

 濃密な日程をこなすには、この変更が必要不可欠だと言われる。主力選手が消耗することで、故障者が多発する可能性を捨てきれない。プレーヤーズファーストのルールとも言える。

 事実、その恩恵を受けているのが、若手選手だろう。Jリーグでは、今シーズン、例年にないほど、若手の台頭が目立っている。5人に交代選手が増えたことでプレー機会が巡ってきているし、やりくりの中、彼らを登用せざるを得ない、という事情があるのだろう。切り札のような存在になった川崎フロンターレの三笘薫は、2020年シーズンを象徴するルーキーと言えるかもしれない。

 しかし長く続いてきたルールには、それなりの理由がある。VAR判定も含めてそうだが、時代に合わせて変えればいい、というわけではない。必ず、検証が必要になる。

 交代選手は5人でいいのか。

 一日も早くコロナが収束し、本来の形に戻って、サッカーの本質まで歪ませないことを祈るばかりだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。