「わたしは黙々と仕事をするタイプだ。軋轢のない調和した状態を保ちながら、一方的に指示を出すよりもコンセンサスを取りながら物事を進める。一流のエンジニアでも一流の経済学者でも一流の弁護士でもない。何かにおいて特別な能力を持っているわけではないが、働きやすい環境を作り、迅速にチームとして困難を乗り越えることをモットーにしている」

 これは2015年7月にバルセロナの会長選挙に立候補していたジョゼップ・マリア・バルトメウがエル・パイスのインタビューにおいて行なった自己分析である。

 バルトメウがバルサの会長に就任したのは、2014年1月。友人でもあるサンドロ・ロセイの辞任に伴い内部昇格の形で後任に選出された。そして2015年の年明けに当時の指揮官、ルイス・エンリケ(現スペイン代表監督)とエースのリオネル・メッシの間の確執など問題が山積する中、選挙を1年間前倒しするという英断が呼び水となって、チームが快進撃を開始。そのままクラブ史上2度目のトリプレーテ(3冠)を達成し、その快挙が文字通り追い風にになってこのインタビューの直後に会長選に勝利したのだった。
 
 あれから5年余りの歳月が経過。バイエルン戦での2対8の歴史的大敗、11人の幹部の辞任、今なお警察の調査が続く、SNSを用いての利害の対立する人間を中傷したとされる「バルサゲート」疑惑、不信任投票の実施に向けた囲い込みの動き、そしてメッシとの確執。まさに難題に次ぐ難題で、2020年はバルトメウにとって2015年をさらに上回る困難な1年となっている。

「バルトメウは、自らの行ないがどれだけクラブに大きな損失をもたらしたのかを理解できていない」と非難するのはかつて理事会の構成メンバーだった元幹部だ。辛辣な言葉はさらに続く。

「彼は辞任しないことが責任を果たすことだと思い込んでいる。自分のやっていることに同意する人間を常に探していて、そうやって自分を正当化するところがある。クラブの運営は、バルトメウがサンドロ・ロセイとともにジョアン・ラポルタの陣営(その後、ラポルタは会長選挙で勝利)に加わった2003年とは比べものにならないほど複雑化している。

 会長職が務まるだけの準備が備わっているとは思えない。組織を円滑に運営する能力に長けているわけでもない。もともと人を信頼しないところがあって、だから一目惚れをしても、すぐに冷めてしまう。彼がメッシをはじめとする選手たちにすがるしかない状況になったのはある意味必然だよ」
 
 バルサともパイプを持っている移籍マーケットの情報通も手厳しく指摘する。

「バルトメウはサッカーを理解していない。だから直観の赴くままに全てを決めてしまうんだ。彼の体制下でバルサはいくつもの不可解なオペレーションを行っているが、それはサッカービジネスに精通している人間なら決して許可しない類のものだ。サッカーを知っている人間を周囲に置いておけばまだいいが、それもしない。

 今のバルサに組織が肥大化しているだけで真のプロフェッショナルは限られている。だから組織として正常に機能しないんだ。もっと他の有力クラブを参考にして組織を簡素化する必要がある」
 
 一方、まったく異なる見解を示すのがバルトメウの出身校であるESADEの旧友だ。ちなみにESADEはスペインで超一流のビジネススクールとして知られている。

「バルト(愛称)はマラソンの選手のようだった。コツコツと努力を積み重ねる。策略家というよりもハードワーカーだ。対立することを好まず、陰湿なところもない。環境の変化に対応する能力にも長けている」

 さらに人柄についても、「一言でいえば、とてもいい奴だ。誠実で、真面目。逆境に直面しても、まず自分自身のことよりも周りの人間のことを考える。それはバルサでも同じだ」と高い評価を与える。

 スタッフのひとりが「こんな毅然とした態度を取る会長を見たことがない」と驚嘆したのが、メッシの去就騒動におけるバルトメウの対応だった。

「ルール上、バルサ側に理があるとの確証を得てからは契約解除金に設定されている7億ユーロを盾に要求を拒否し続けた。会長のその姿勢がクラブを一枚岩にして、メッシと立ち向かうことを可能にした」

 前出の元幹部も「強気な態度で対処した。白旗を上げるしかないと考えていた人間はさぞかし驚いたことだろう。メッシもきっと同じ心境だったはずだ」と指摘する。

「無能な人間と見くびると、痛い目に遭わされる。彼を“ノビタ”と呼ぶことと、嘲笑することはまったく別物なんだ」
 
 もっとも、メッシの残留という殊勲の白星を挙げても、前述の通り、問題は山積している。周囲からの風当たりも増すばかりで、そんな中、20年間連れ立った妻と別居。2人の子供も激しい取材攻勢を受けている。

 任期途中の辞任は当然選択肢として浮上してくるが、昨夏のアントワーヌ・グリエーズマンの獲得を筆頭とした近年のメルカードにおける乱獲補強に新型コロナウイルスの危機が重なり、クラブの経営が急激に悪化。退陣前に財務調整を施しておかないと自分たちに火の粉が降りかかるという危機感が勝り、圧力に屈する気配はない。

 もちろん無観客試合が継続していることも味方しているのは間違いないし、さらに公の場に出ると、ポジティブな姿を見せようと努力している。もっとも、コミュニケーションの専門家によると、そのマスク越しの身振りや表情から現実から目を背ける人間特有の傾向が見え隠れしているという。

 バルトメウの人物評はその立場や関係に応じてそれこそ色とりどりだ。そんな中で、その働きぶりを間近で見てきた元幹部の次の言葉がもっとも端的に現状を表しているのかもしれない。

「バルトメウはどこにでもいるごく普通の人間だ。何かに特別に秀でているわけでも何かに特別に劣っているわけでもない。一番の問題は、そのような人間が、バルサがクラブ史の中でも極めてデリケートな事態に直面しているいまこの時期に、組織のトップに立っていることだ」

文●ラモン・ベサ(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸

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