今年8月、現役生活に別れを告げた内田篤人は、その引退会見で海外志向の強い若手に向けてこんな言葉を残していた。「海外に行きたいのは分かりますけど、チームで何かをやってから行けばいいのにな、とは思います」。日本人に最適な海外移籍の形とは? スポーツライターの二宮寿朗氏に改めて検証してもらった。(※『サッカーダイジェスト9月24日号(9月10日発売)』より転載)

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 数年前なら「経験を積んでから海外移籍すべき」に賛同したであろう。しかしながら時代は変わった。昨夏、東京五輪世代の選手たちが相次いで欧州に渡り、もはやその流れは食い止められない。南野拓実、久保建英らの順調なステップアップは欧州移籍の早期化を促進すると見ている。

 南野は5シーズン半、ザルツブルクでプレーして今年1月に2018-2019シーズンの欧州チャンピオンズ・リーグ覇者であるリバプールに移籍した。セレッソ大阪の育成組織からトップに昇格して、プレーしたのは実質2年。J2降格の憂き目に遭い、20歳になるシーズンにオーストリアに渡っている。早いタイミングでの海外移籍ではあったが、結果的にリバプール入りを実現させたのだから成功したと言っていい。

 バルセロナのカンテラ出身の久保は元々欧州でも注目されていた存在であり、他の日本人選手の背景とは異なる。昨夏、FC東京で出場機会を得るようになって半年、18歳になったタイミングでレアル・マドリーと契約してスペインに帰還した。レンタル先のマジョルカで己の価値をしっかりと示し、今季からはビジャレアルでプレーしているのだから上手く進んでいると言える。
 
 南野も久保もJリーグでタイトルなりベストイレブンなり何かシーズンを通しての結果を残したわけではない。その前に渡欧して成功に向かっているのだから、若い選手が「じゃあ俺も」となるのは致し方ないこと。上の世代の本田圭佑や香川真司らはJでフルに3年ほど働いてから海外へ飛び出している。実力を示さなければ、オファーは来ない。その時間が必要だった時代でもある。

 今は日本人選手の活躍もあって欧州移籍が日常となり、青田買いする動きがアジアにも及んできた。それでも成功例がなければ躊躇するかもしれないが、特に南野がA代表の中心選手になり、リバプールまで届いた事例はやはり大きい。
 
 しかしこのパターンは大体“這い上がり”を伴うもの。欧州主要リーグの中堅以下、またはオーストリアのように主要以外のリーグからのし上がっていくタフさが求められる。そこまでの覚悟があるのかどうかだ。実際、昨夏の移籍組で括ると中村敬斗、食野亮太郎らは昨季とは異なるリーグへと渡った。彼らがどう成功するかによっても、今後のスタンダードが変わってくる可能性はある。

 ただし内田篤人のように鹿島で3連覇を果たし、Jリーグベストイレブンにも選ばれて誰からも認められる形で海外に挑戦していく本来の形が“時代遅れ”になったとは思わない。Jリーグでしっかりと実力を付けてあれだけシャルケで活躍したのだから、この「王道パターン」も十分にアリだ。考え方やプレーをある程度確立させておくことが成功の近道となる好例である。20代前半で海外に行くことが望ましいことに変わりはない。ただ、Jリーグでの経験値が決して遠回りではないことを示している。
 
 欧州移籍の早期化はきっと止まらない。Jリーグのクラブに入団しても1、2年で出ていくケースは増えていくと思われる。

 ならばクラブはどうしていくべきか。やはり選手の帰属意識が高まるような魅力的なクラブにすることが一番ではないだろうか。内田は鹿島から海外移籍を模索する際、移籍金を残すことにこだわったという。後に鹿島に復帰したのも、クラブへの愛着が強かったからに他ならない。

 彼は鹿島でもシャルケでもレジェンドになり、いずれのファン、サポーターからも愛された。それがどれほど偉大で、どれほど素晴らしいことか。欧州への早期移籍を望むのはいい。ただウッチーのような生き方もかなりクールだぜ! と私は声を大にして言いたい。

文●二宮寿朗(スポーツライター)

※『サッカーダイジェスト9月24日号(9月10日発売)』より転載