リオネル・メッシは何もしなくても、注目されるプレーヤーだ。11月7日のベティス戦で、元チームメイトのクラウディオ・ブラーボ相手に決めた“無ゴール”は、現在“10番”が直面している状況を象徴しているようでもあった。

 このアントワーヌ・グリエーズマンの得点をお膳立てしたプレーがここまで見事に決まったのは、メッシとジョルディ・アルバの強力コネクションが関わっていたからでもある。事実、メッシの対角線パスを起点に、ジョルディ・アルバがサイドをえぐってゴール前にクロスを送り、走り込んできたメッシが合わせるという2人よるシンクロされたプレーからバルサは近年、ゴールを量産してきた。

 それは相手にとって分かっていても止められないプレーであり続けた。当然この場面も、ベティスの守備陣はジョルディ・アルバがグラウンダーのクロスを入れた瞬間、シュートを警戒した。しかしメッシは軽くジャンプしながらボールに触らないスルーというプレーを選択した。

 対峙していたマルク・バルトラは完全に裏を突かれ、ボールが通り抜けた先にいたアントワーヌ・グリエーズマンは無人のゴールに蹴り込むだけでよかった。咄嗟の判断で一瞬 “透明化”することで相手の守備陣を粉砕したこのプレーは、これまでメッシが見せてきたレパートリーにはなかったものだ。

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 メッシはデビュー以来、無数のゴールを積み重ね、サッカー界の最高峰に君臨し続けてきた。このベティス戦でも、PKを含めて2得点を挙げた。

 ただこの一戦を迎えるまで今シーズン、記録したゴールはいずれもPKで、流れの中でネットを揺らしたのは昨シーズンのチャンピオンズ・リーグのナポリ戦(ラウンド・オブ16の第2レグ)以来だった。

 しかも夏に巻き起こした去就騒動を境に、取り巻く環境が変化し、周囲からの風当たりも強くなっていた。ここ最近は走行距離の少なさ、ボールロストの数、敗北後に見せる苛立った表情など、その一挙手一投足に揚げ足を取ることで、得点ペースが落ちた原因を探ることが一種の流行のようにもなっていた。ベティス戦での活躍で風向きが少しは変わるだろうが、特筆すべきは2つのゴールよりもむしろ、スルーのほうが人々の印象に残ったことだ。

【動画】主審の前でボールを蹴り飛ばし…目を疑うようなメッシの“威嚇行為”はこちら
 この試合、メッシはベンチスタートだった。そのエースが戦況を見守る中、グリエーズマンが牽引車となり、マルク=アンドレ・テア・シュテーゲンとフレンキー・デヨングがサポート役となって織りなすパフォーマンスは決して悪い出来ではなかった。

 それはメッシ不在の新たなバルサの誕生の息吹を感じさせるものでもあったが、しかし押し気味に試合を進めても肝心のゴールが入らず、試合は1−1のタイスコアでハーフタイムに突入。ロナルド・クーマン監督は後半頭からメッシを投入し、そして10番はいつも通りにエースの働きを見せチームを勝利(5−2)に導いた。

 しかもそのあまりにも鮮やかなスルーを目にして、われわれは一つの疑念を抱く結果になった。今度、メッシが同じような場面に遭遇したときにシュートを選択するのか、そのままスルーするのか――。それは将来の選択についてもいえることだ。去就問題の行方に注目が集まっているが、コロナ禍でファンがカンプ・ノウでアクションを起こせない中、意表を突く決断を下すかもしれない。

 もはやメッシはメッシでいるためにゴールを決める必要はない。レギュラーで出場する必要もないし、守備に奔走する必要もない。ましてや影響力を行使して試合に出場しているなんて公言する必要もない。そもそもベティス戦のベンチスタートにしても、コンディション不良だったのか、どこか怪我をしていたのか、クーマンと話し合ったうえでの温存策なのかわれわれの与り知るところではない。

 試合中に休んだり、歩いたり、全力でプレスしないことに対する批判の声が高まっていることは確かだが、もはやメッシはそんな周囲の雑音を超越したところにいるのだ。そんな中で、シュートすることなくネットを揺らしたベティス戦での“無ゴール”はその神秘性をさらに加速させることになりそうだ。

文●ラモン・ベサ(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸

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