時代が変わっても、争う目的が違っても、戦いを制するには「情報」が重要なカギを握る。

 セビージャは、優れたスカウト陣を世界に張り巡らせ、その情報を正しく結論に導くことで、優秀な選手を数多くそろえてきた。それがチーム力になって、欧州でも「伏兵」として一目置かれる。そのスカウティング力の確かさは、「セビージャにスカウトされたんだから」と選手に対して自信を抱かせ、一つのブランディングにまでなっているのだ。

 また、同じくスペインの名門レアル・ソシエダは、地域の70近いクラブと提携契約を結んでいる。「情報のパイプ」を確立するために、1億円以上の資金を投入。優れた才能が出てきたら、すぐにチームに招き寄せ、競争力を高めている。欧州のトップクラブの中では、トップチームでの下部組織の出身者の割合が最も多いのは必然だ。

 そして欧州のトップクラブでは近年、相手の戦術の研究のためにコーチングスタッフの中に「戦略分析担当」という役職ができている。膨大な情報から適切な分析をすることが、重要な仕事だ。

 歴史上、戦力的な大差を覆すような戦いには、相手の弱みに付け込むような情報戦での勝利があった。

 例えば、桶狭間の戦いでは織田信長が大軍を擁する今川義元を奇襲で討ち取り、劇的な勝利を得ている。戦功において、信長が第一の手柄としたのは、義元の首を討ち取った者ではない。今川軍がどこでどのように休んでいるか。信長は、その情報をもたらした者を称えた。

 また、九州の桶狭間と言われる今山の戦いでも、情報の獲得がモノを言った。龍造寺軍は10倍以上の大軍を引き連れた大友軍を前に劣勢だった。しかし、「大友軍は翌日の総攻撃に備えて、祝宴を開いている」という知らせを得る。そこで龍造寺軍はわずかな手勢で夜襲をかけ、かく乱、壊乱させた。誤った情報なら、返り討ちで全滅は必死だったが、情報を信じたのだ。
 
 情報が勝利をもたらす。

 昨シーズン、Jリーグを制した横浜F・マリノスは、相手を丸裸にしていた。対戦する敵の一番弱いところを、しつこいまでに攻め立てる戦い方だった。例えば左サイドの守備に脆さがあるという見立てが出たら、トレーニングからそれを繰り返し、試合でも貫いた。攻撃に特化した能動的な戦い方に関しては、まさにオリジナルだったが、自分たちらしさに溺れることはなく、相手を研究し尽くすことで勝利を得られたのだ。

 情報戦は局面を左右する。

 もっとも、情報は扱いも難しい。情報に囚われ、振り回される場合もあるだろう。結局、それを運用する指導者や選手の眼力や実戦力、あるいは度胸が必要になるのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。