マンチェスター・シティの練習場を一緒に散歩していて、あるホールの扉の前で立ち止まった時だった。こちらが話しかけようとすると、ジョゼップ・グアルディオラが先に言葉を発した。

「ここにきてから選手といざこざが起こっても、一度もメディアに漏れたことがないんだ」

 ロッカールームはチームが生息する場所だ。監督にとってこの場を取り仕切ることができれば、実際の試合で采配が振るいやすくなるし、居心地の良さにも繋がる。

 グアルディオラが先月、シティとの契約を延長したのはその感触を得ていたからに他ならない。「旅は続いていく」――。クラブはこう表現して契約延長を発表した。

 SD(スポーツディレクター)のチキ・ベギリスタイン、CEOのフェラン・ソリアーノと、バルサでもともに力を合わせて働いた仲間の存在もペップの決断を後押しした要因の一つだ。

 シティのハルドゥーン・アル・ムバラク会長は「(今回の契約延長は)グアルディオラの能力、パッション、インテリジェンスが、チームが掲げるプレーモデルとクラブに息づくカルチャーと固い絆で結ばれていることの証だ」と語る。
 
 過去に指揮したバルサ、バイエルンではそれぞれ4年、3年で退団している。しかし、シティではその2クラブで手にすることができなかった理想の環境を手にしている。

 グアルディオラはディテールにこだわる人間だ。たとえば、シティはパンデミックによる中断期間中にスタッフの給与のカットを断行しなかった。あるいは昨シーズン、プレミアリーグ3連覇を逃し、リヨンの前にチャンピオンズ・リーグ準々決勝で敗退したときに、クラブ内部から批判の声が出ることはなかった。こうした一つ一つの出来事がグアルディオラの心証を良くしていたことは間違いないだろう。

 実際、シティは次のような声明を発表している。

「グアルディオラが挑んでいることはチャンピオンズ・リーグを制覇することではない。世界最高の監督であることを証明することでもない。そのような議論はメディア向けの不毛なもので、彼の優秀さを否定するものでしかない。クオリティの高いサッカーを実現して、チームの完成度を極限まで高めること。それこそがグアルディオラが挑んでいることであり、最終的にはヨーロッパを含めて様々なコンペティションにおいてチャンピオンに近づく道となるのだ」
 
 この名将の契約延長でシティは安定を手に入れた。古巣のバルサでは来年1月に新会長を決める選挙が行われるが、候補者がペップの名前を使うこともできなくなった。何よりも進退を巡る報道が沈静化し、自身も仕事に専念することができる。

 今夏、シティは、ファイナンシャル・フェアプレーの違反による罰金以外の処分を回避した。グアルディオラが目指すのは、スタッフと密に連携を図りながら、アカデミーの有望株を育て上げ、エリック・ガルシア、ロドリ、フェラン・トーレスといった若手をワールドクラスの選手に成長させ、プレーレベルを高めてユルゲン・クロップ(リバプール監督)やジョゼ、モウリーニョ(トッテナム監督)らと互いの腕を競い合うこと。「ここよりも居心地のいいところなんてないよ」とペップは声を弾ませる。

 今回の決定は、また保留となっているある事項に波及効果をもたらす可能性がある。なぜならリオネル・メッシがバルサ退団の意思を覆さない場合、シティの監督が誰であるか明確になったからだ。

文●ラモン・ベサ(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸

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