2018年5月、チャンピオンズ・リーグ(CL)決勝の会場となったキエフでのことだった。レアル・マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長はキャプテンのセルヒオ・ラモスに対し、リバプールを下してビッグイヤーを獲得すれば、2021年6月に満了する契約を延長すると約束した。

 そしてマドリーは3-1で完勝。クラブ史上13度目のCL制覇を果たした。しかしその2018年、中国への移籍騒動を演じた2019年、人類がパンデミックに襲われた2020年を経ても契約は更新されないまま、ついに最終年に当たる2021年に突入した。

「もし許されるのであれば、セルヒオ・ラモスには一生マドリーにいてもらってもいいくらいだ」

 昨シーズンのラ・リーガ制覇直後にこう明言したように、ペレスは基本的には残留を望んでいる。一方で、S・ラモスも残留が第一希望だ。しかし昨シーズンの新型コロナウイルスによる中断時に、選手全員の10パーセントの給与と各種ボーナスのカットの合意を取り付けるなど、ピッチ内外でキャプテンシーを発揮してきた自負のある彼は、その働きに見合った新契約を希望しており、いま提示されているオファー内容を不十分と見なしている。

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 数週間前にこんなことがあった。S・ラモスはパリSGから年俸2000万ユーロ(約25億円)のオファーが届いる旨をペレスに報告した。しかし、ペレスは事前にパリSGのナセル・アル・ケラフィ会長に直接電話でオファーがないことを確認していた。

 その話を聞かされたS・ラモスは「ナセル・アル・ケラフィに騙されている」と言い返すも、会長はオファーの受諾を勧めるようにこう突き放したという。「君にとってよりいいことじゃないか」

ちなみにオファーの有無についてナセル・アル・ケラフィ会長に近い関係筋に問い合わせると、S・ラモスへの興味そのものを否定した。「事実ではない。2000万ユーロだって?(キリアン)エムバペよりも稼ぎが多い。馬鹿げた話だ。パリSGを利用する人間が多すぎる」

 S・ラモスの希望が複数年契約であることを知るペレスは、今シーズンも含めた在籍期間中の給与10パーセント減を条件にしている。S・ラモスに近い関係筋によると、金銭面が焦点となっていることは認めながらも、不満のひとつとしてクラブ側の交渉の進め方があるという。
 
 例として挙げるのが、冒頭のキエフでのエピソードだ。たしかにペレスは契約延長を打診したが、それは口約束に過ぎない。S・ラモスは、長年、クラブに果たしてきた貢献を考えれば、交渉は文書も含めたよりフォーマルな形で進めるべきだと考えている。2年目はオプションとなるだけに、より細部まで条件面の話し合いを行わなければならない。

 そこでネックとなるのは、常に主導権を握りたがるペレスの性格だ。クリスチアーノ・ロナウド(現ユベントス)ともそれが原因で幾度となく衝突を繰り返した。クラブ首脳陣に近い関係筋によれば、会長はオファー内容を変更するくらいならS・ラモスが退団することを望み、その場合は代役を獲得すれば事足りるというスタンスだという。

 実際、すでにその候補として同じく今年の6月に所属クラブのバイエルンとの契約が満了するダビド・アラバに着目し、すでにコンタクトを取っている。

 両者の主張は平行線を辿ったままだが、ターニングポイントとなるかもしれないのが。クラブが昨シーズンに続いて全選手に対し働きかけている10パーセントの給与カットだ。昨年は、キャプテンの尽力で合意を得たのは前述したとおりだが、今年はそれ以上に選手たちとの話し合いは難航している。
 
 ペレスとしては、話し合いを軌道に乗せるために再びS・ラモスの力を必要としている。一方、スペイン代表DFとしても自らの調停で合意に達することは、新契約をよりコロナ禍における経営実態に見合った内容に近づけることにも繋がる。

 ただ問題は、S・ラモスが手掛ける不動産ビジネスが業績不振に陥っていること。その情報はクラブ側ももちろん把握しており、それがまたセルヒオ・ラモスが交渉で少しでも好条件を引き出そうと画策する要因にもなっている。

文●ダビド・アルバレス(エル・パイス紙マドリー番)
翻訳●下村正幸