2月1日(現地時間)に迎えた冬の移籍市場最終日。一部のリバプール・サポーターは、フィルジル・ファンダイクとジョー・ゴメスが怪我で戦列を離れて以来、問題視され続けてきたCBの補強を喜ぶ一方で、同時進行しているビジネスがもう一つあると聞き、眉をひそめ、頭をかいていた。それこそが南野拓実の移籍だった。

 オザン・カバク(←シャルケ)とベン・デイビス(←プレストン)という将来性もあるCBの加入というニュースは、サポーターに安堵させ、「南野のレンタル移籍」というニュースのインパクトを減少させた。しかし、たとえ今シーズン終了までの期限付きとはいえ、この日本代表FWがチームを去るという事実は、ファンの間でにわかに挙がっていた議論が再燃させた。そう、「南野に何があったのか?」という話題である。

 実際、南野の移籍は6週間前には考えられなかった。先発フル出場を果たしたクリスタル・パレス戦では、プレミアリーグ初ゴールともなったチーム先制点を決めて7-0の圧勝劇を呼び込んだ。だが、それ以来、南野の出場機会は激減。プレータイムはFAカップ3回戦のアストン・ビラ戦での61分と、プレミア第18節のバーンリー戦での6分だけだった。

 南野が出番を失っていた最中、チームがプレミアリーグで4戦未勝利と低迷したこともあり、ファンの中には、その起用法に首を捻る人もいた。とはいえ、ユルゲン・クロップ監督にしてみれば、この26歳を使わない理由もあった。

 数字だけを見れば、バーンリー戦の6分間を除いて、南野は出場した2試合で1ゴール・1アシストと目に見える結果を残したと言える。しかし、パフォーマンス全体を判断すれば、周囲を納得させるプレーぶりとは言い難かった。
 
 とりわけアストン・ビラ戦では、相手は新型コロナウィルスの影響でU-23とU-18の選手たちで構成された急造チームだったが、日本代表FWは局面でボールを失う場面も少なくなく、DFに何度も当たり負けするシーンが目立った。

 そんな南野とは対照的に翻意されたのが、ジェルダン・シェキリとディボック・オリギだ。

 前述のアストン・ビラ戦で2アシストを記録したシャキリは、もともと今冬の放出リストに名を連ねていたが、あの日以来、プレミアリーグでも頻繁に起用されている。一方のディボック・オリギにも退団の噂があったが、南野よりも強靭なフィジカルを持つ彼のようなタイプがチームに少なかったこともあり、数少ないオプションとして留められたのだ。

 シャキリとオリギは、決して継続的ではないが、結果を残してクラブに貢献した「実績」がある。かたや南野は指揮官からの信頼を完全に勝ち取れてはいない。そうした状況もあって、2月1日のデッドラインデーにリバプールは、サウサンプトンに獲得を打診されても、容易に「放出」の選択肢を選べたのである。
 この交渉についてクロップは、次のように述べている。

「『絶対にあり得ない』と、即座に突っぱねたりはしなかった。時間を割いて、しっかりと考えた。タクミは実力を備えているが、我々は十分な出場機会を与えられていない。様々な理由があるとはいえ、それこそが真実だった。

 現在のチームは守備に問題を抱えており、このチームでは守備のタスクをこなすことが大事な仕事でもある。だが、タキは上背がなく、フィジカル面に難がある。セットプレーでの守備は非常に重要な問題だ。

 レンタルでタキを放出するうえで、出しても有益にならないクラブは多い。だが。サウサンプトンであれば、その意味があった。サウサンプトンを助け、同時にリバプールにも有効となる。ここでは難しかった連続出場の機会を与えることができる」

 一方のサウサンプトンのラルフ・ハーゼンヒュットル監督も、先日の記者会見で南野のフィジカル面について、興味深い評価を口にしていた。

「私にとって彼は、とてもスペシャルな選手だ。身体能力ではなく、彼のプレースタイルのことだ。頭の回転が速く、好判断をできる。我々のプレッシングサッカーを理解しているし、走り回ってくれるはずだ」
 
 無論、南野本人にとっても、今回の移籍は大きな意味を持つ。リバプールでは限られていた先発の機会が、サウサンプトンであればより頻繁に巡ってくるからだ。プレータイムが増えれば、必然的に試合勘が戻り、動きもシャープになるのは間違いない。

 しかしながら、レンタルからアンフィールドに戻った選手で成功した例はほんの一握りである。ヴォルフスブルクからレンタルバックした経歴を持つ数少ない「成功例」と言えるオリギのケースも、真の意味で成功と呼ぶには至らない。

 そして、忘れてはならないのは、わずか1年前にリバプールが南野の獲得のためにザルツブルクへ支払った725万ポンド(約10億1500万円)だったということだ。それは彼らにとって、たとえ失敗だったとしても痛みの小さい、低リスクの投資なのである。
 
 そんな迎え入れられ方をした南野にとって、イングランドへやってきてからの13か月は常にタフな時間だった。

 移籍からわずか2か月後に、世界中が新型コロナウィルスによるパンデミックに陥り、英国もロックダウンを余儀なくされた。入団2年目となった新シーズンも、リバプールに怪我人が続出した事情もあり、南野は不慣れなインサイドハーフで起用されたこともあった。それだけに本人も、コンスタントにチャンスが与えられる新天地で、真価を発揮したいと考えているに違いない。

 周知の通り、今回の期限付き移籍には買い取りオプションは付帯していない。この事実から読み取れる可能性は2つある。

 一つ目は、リバプールが来シーズン以降は再び戦力として迎え入れる可能性だ。今シーズンの残り約4か月は南野にプレー機会をもたらし、よりイングランド・サッカーに慣れてもらうための、ある種の準備期間を与えたと考えられる。

 もうひとつは、今シーズン終了後にやってくる今夏の移籍市場で、より高値で売却するための伏線としての可能性だ。リバプールにしてみれば、どちらにしても“Win-Win”の状況なのである。

 だが、クロップ監督は、今回の処置はあくまで一時的な移籍だというスタンスを崩さない。

「チームに置いておけるのであれば、そうしたかった。タクミは我々の長期的なプロジェクトの一つで、獲得する前からそう考えられていた。だからこそ、彼が出場機会を与えられることは、大きな意味をなすんだ」

 この言葉を真に受けるのであれば、指揮官は南野を戦力として考えているということになる。しかし、何が起こるか分からないのがサッカー界の常だ。仮に南野に再びリバプールの赤いシャツを身に着ける機会が訪れなかったとしても、我々は何ら驚くことはない……。

Text by Ian Doyle(Liverpool Echo Chief LFC Football Writer)
文●イアン・ドイル
Translation by Kozo Matsuzawa
訳●松澤浩三