ペドリ、ロナルド・アラウホ、セルジーニョ・デスト、フランシスコ・トリンカン、アンス・ファティ、リキ・プッチ、オスカル・ミンゲサ、コンラッド・デ・ラ・フエンテ……。続々と若手が台頭しているバルセロナにおいて、最近、目覚しいパフォーマンスを見せているのが今年1月にトップチームデビューを果たしたばかりのMFイライシュ・モリバだ。

「ボンバ(爆弾)だよ。フィジカルもテクニックもね。しっかり地に足をつけて取り組むことができれば、一時代を築くことだって可能なはずだ」。チームのあるベテラン選手がこう称賛するなど、周囲の評価もうなぎ上りだ。

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 バルサには長年、カンテラの選手に対してひとりの特別扱いも許さないという不文律があった。契約を延長する際にも、例外を設けることはなかった。それがプレミアリーグやブンデスリーガへの有望株の流出を招く要因になっていたが、あくまでクラブは“平等主義”のスタンスを貫いた。しかしついにその長く維持してきたポリシーを改めなければならない怪物が現れた。それがイライシュ・モリバだ。

 事実、今から2年前チェルシー、マンチェスター・シティ、ユベントス、ボルシア・ドルトムントといったクラブが、金銭面でもスポーツ面でもカデーテ(U−16)の選手としては破格のオファーを提示していた。

 そこでバルサは掟を破り、できるだけ早くトップチームに昇格できるよう可能な限り便宜を図るという“約束手形”とともに3年総額200万ユーロ(約2億5000万円。家族と代理人にコミッションとして別途250万ユーロ=約3億1250万円が支払われた)という待遇で契約を延長。契約解除金は1億ユーロ(約125億円)に設定され、逸材の流出を阻止した。

 もちろんクラブ内には反対の声も上がったが、前例を作ることのリスクを負ってでも契約改善を強く主張したのが、育成部門の責任者のホセ・マリア・バケーロだった。交渉に立ち会った関係者がこう振り返る。

「バケーロはイライシュのポテンシャルを誰よりも評価していた。彼の意見が、最終的な意思決定を行なううえで決定的な要素となった」

 しかし、これで無事決着とはいかなかった。

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 お粗末なことに強化担当者が、著名のために契約書を送信する際に、宛先に誤ってイライシュ・モリバが2010年のバルサ加入前に在籍していたエスパニョールを追加してしまうという失態を犯してしまったのだ。

 契約内容が白日の下に晒され、この事件を境に同じように契約延長交渉に臨むエージェントはこぞってイライシュ・モリバに提示した数字をちらつかせるようになった。ただ本人はそんな周囲の喧騒などどこ吹く風といった態度でサッカーに専念し続けた。クラブの関係者はそんなイライシュ・モリバの人柄についてこう評する。

「ストリート出身の選手でね。やんちゃなところがあってトラブルを起こしたこともあったけど、人格の形成という面ではプラスになった。今も行動をしっかり監視しないといけない。でも彼はそれ以上のものをわれわれに与えてくれる。今時珍しいパーソナリティを持った選手だよ」
 
 現行の契約は来年の6月に満了するが、クラブの誰もが新たに契約を締結することを信じて疑わない。前出の関係者もこう明言する。

「イライシュもアンスも本人の強い意志のおかげでバルサに残留した。家族や代理人は他のクラブのオファーを受諾する方向に気持ちが傾いていたからね。彼らはバルサを心から愛している」

文●ジョルディ・キシャーノ(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸

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