レアル・マドリーのジネディーヌ・ジダン監督は、戦術的なチームを志向しない。システム化された戦いとは対極的。むしろ、個の力量に頼ったもので「フィーリング」に近いだろう。

 先日、欧州チャンピオンズリーグ準決勝ファーストレグで、ジダン・マドリーはチェルシーと対戦している。立ち上がりから戦術組織の戦いで、後手に回ることになった。トーマス・トゥヘル監督が率いるチェルシーは幅を使いながら、中を広げて目くるめく攻撃を展開し、人とボールの動きは一体、マドリーはその対応に苦しんだ。

 結果、事態を好転させられず、先制点を許したことはジダンにとって誤算だったに違いない。しかし、ジダンは、戦いの中でピッチに立った選手たちが相手の戦術に適応できることを信じていた。事実、失点後はインサイドハーフとして先発したルカ・モドリッチが一つ前にポジションを取り、右サイドで攻撃を分断する一方、左からはヴィニシウス・ジュニオールを中心に攻め返す。攻守両面で五分に持ち込み、ペースを戻していった。

 そして20分を過ぎると、マドリードはいつのまにか流れを引き寄せていた。押し込んでからのセットプレー。味方がつないだボールを、エースであるカリム・ベンゼマがボレーでねじ込んだ。

 ピッチ内で人の立ち位置を少し変えるだけで、ジダン・マドリーは試合に適応し、やがて凌駕した。

【動画】“マドリーらしさ”を見せたCLチェルシー戦はこちら
 ジダン・マドリーの特徴は“撓み”にあるだろう。個人が状況の中で動き、折れそうで折れない。しなるように相手を引き込みながら、攻め手を奪っていって、一気に反撃へ出る。前にボールが入った時、一人で局面を動かせる選手たちが幾人もいるのだ。

 名将ジダンは、彼らのプレーを信じられる。その信頼こそ、リーダーとしての才能だ。かつてはベンゼマも、ヴィニシウスも、「使い物にならない」と激しい批判を浴びたことがあった。しかし彼らはジダンの信頼によって、ピッチに送り出された。そして、その存在は今や欠かせない。

 選手の使い方は、簡単そうに見えて極めて難しいもので、低調なプレーが続けば、周囲に押されて見切りをつけたくなる。当の選手も憔悴しているか、不満をため込んでいるか、どちらか。それだけに、監督は単純に悪循環を断ち切りたくなるのだ。

 しかし、ジダンは安易な手を使わない。使った選手を信じ、その力を使い切れる。守備面でも、「失敗」の烙印を押されていたミリトンを一人前になるまで起用していたからこそ、セルヒオ・ラモスという重鎮の穴を埋められたのだ。   

 スコアは1-1のままで終了。マドリードとしては優勢に立っただけに逆転まで持ち込みたかったところだが、悲観するような結果ではない。決勝進出を懸けたセカンドレグは、5月5日に行われる。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。