清水エスパルス育成部は5月、新たな取り組みとして現役日本代表GKの権田修一をゲストティーチャーとし、オンライン講座「S-PULSE GOALKEEPER MEETING」を開催した。

 清水のアカデミー(U-10〜U-18)とスクールに所属するGK、そして静岡県各地域トレセンのGKコーチからのさまざまな質問に権田が答えていくイベント。「これからどういうGKを目指していくのか?」「海外に行って驚いたことは?」「練習で意識していることは?」といった質問に対し、日本のGK全体のレベルアップに強い関心を持つ権田は、小学生にも分かりやすい言葉で丁寧に答えた。

 ここでは、ひとつの質問と回答にフォーカスし、中学時代の権田が大きく成長したきっかけに迫っていく。質問は中学年代を指導するコーチからの「至近距離のシュートに対する恐怖心をいつ頃克服できたんですか?」。それに対して権田は次のように答えた。

「近距離のシュートというのはGKの醍醐味であり、いちばん肝っ玉が大事になるところだと思うんですが、僕は正直に言うと中学1年生の頃はダメでした。恐かったです。でも、中2の時に3年生の試合に起用してもらったのに、(近距離のシュートで)失点して試合に負け、先輩たちが引退してしまいました。
 
 僕は(シュートを)避けたわけではないけど、練習でコーチに教わっていたやり方とは違う対応をしたんですね。その頃は、身体を横にしてお腹から行こうと……、昔(川口)能活さんがよくやられていた形でアプローチしようと教えられていました。でも僕は、今多い形というか、身体を起こしてブロックに行って、足もとを抜かれちゃったんです。あとから当時のGKコーチに聞いたら『お前はビビっていたから、あえてその練習をやらせていたんだ』と言われたんですけど、身体を横にするプレーを選択していたらやられなかったんです。

 だから、練習でコーチに言われていたことをなぜできなかったんだろうと。その試合で先輩たちが引退してすごく泣いていて、僕も本当に悲しくて……。その時に『僕が痛いほうがまだいいや』と思ったんです。失点してチームが負けるほうが辛いなと」

 その試合以降、権田はボールに対する恐怖心がなくなり、「逆に『危ないからあまり行き過ぎるな』と言われるようになりました。今も顔にけっこう傷跡が残っていますし、顎も何回か外れているんですよ。妻には本当に気をつけてと言われているんですけど、それで失点を防げるなら安いもんだぐらいに思ってます」と気丈に語った。身体の痛みよりも心の痛みのほうが辛い――。それを思い知ったことが、中学2年生の権田少年にとって大きな転機となったのだ。
 
 ほかの質問に対する回答でも「GKの責任」という言葉を何度も使っていた。今のそうした責任感の強さは、この経験が大きく影響したのだろう。

 ミーティングの最後のメッセージとして、権田は事前に目を通していた質問からひとつを取り上げ、次のように語った。

「『点を取られた時にどんな心境か?』という質問がありました。点を取られたあと、それはGKにとっていちばん苦しい時間です。ただ、GKというのは失点しただけでの交代は基本的にないです。だから、開始1分でミスをしても、試合が終わるまでずっとゴールに立ち続けないといけません。
 
 これからみんながエスパルスのゴールに立った時に僕がいちばん見たいのは、もし失点したあとでも『エスパルスのGKってみんな元気だな』『エスパルスのGKって失点しても絶対に下を向かないで一所懸命に最後までやるんだな』と言われるような姿です。

 年齢に関係なく誰でもできることだし、エスパルスのゴールを守る選手は、いつも気持ちが強い、絶対に諦めない。そうあってほしいし、僕もそういう姿をみんなにずっと見せ続けたいと思っています。みんなも早く権田選手を引退させられるように頑張ってください」

 ここで紹介したほかにも多くの金言があった今回のイベント。森保ジャパンでもっとも出番の多いGKの言葉だけに、誰よりも説得力がある。それを聞いた10〜18歳のGKは何を感じ、これからどう変わっていくのか。引退までとは言わないが、権田をベンチに追いやるほどの成長を楽しみにしたい。

取材・文●前島芳雄(スポーツライター)