日本は典型的な負けパターンにはまりかけていた。

 イメージが重なるのは、この日も日本ベンチに入っていた反町康治・JFA技術委員長が監督を務めた13年前の北京五輪である。十分に勝てる相手と踏んでいた最初の米国戦で、日本は前半にセットプレーからGKとディフェンスラインの間に速いボールを通し、あとはファーサイドでフリーの森重真人がゴールにプッシュするだけだった。だがここでキックミスが出て逸機。その後も主導権を握りながら、後半米国に決勝点を奪われツキにも見放され敗れた。振り返れば、もうそれ以上の決定機は巡って来なかった。
 
 開始9分、久保建英の縦パスを受けた林大地が、絶好のクロスをファーサイドに届けた決定機と瓜二つだった。

 ここまで日本は、大方が優勢を予想した南アフリカ戦とニュージーランド戦で苦しみ、難敵のメキシコとフランスを相手に優れたパフォーマンスを見せた。安易に勝てる空気を醸すのは我々メディアの責任でもあるのだが、やはり個々がどんなに引き締めようと意識しても、スペイン戦とニュージーランド戦では集中の度合いが違う。だからもし準々決勝で締まった試合を見たければ、相手は韓国の方が良かった。

 序盤から日本は明らかに優位に立っていた。相手のアタッキングサードで、プレスバックした相馬勇紀が、また一度ボールを失った遠藤航がすかさずアタックし、久保もアンカーのベルを狙って、次々にボール奪取に成功していた。こうして自陣から一気に運んだ遠藤が堂安律のシュートを呼び込み、その後のショートコーナーから前述の通り9分の決定機が生まれた。もちろん外した遠藤はショックの様子だったが、反面いつでもゴールを奪える感触は広がったに違いない。一方で日本の前がかりの守備が怖いニュージーランドは、前線かサイドにロングフィードで逃げるばかりで日本を脅かす効果的な攻撃には至らなかった。まさかこの時点では、誰もPK決着など予想していなかったはずだ。

 ところが後半早々に、最終ラインを統率するリード主将の故障で流れが一変する。ニュージーランド陣営はセンターバック(CB)のリードに代えてFWのマッコワットを送り込み、5バックから4バックに変更すると一転攻勢に出て来た。またマッコワットを筆頭に、交代出場して来たジャストやシャンプネスが技術水準も高く、最前線で起点となるウッドをフォローしてチャンスを演出し始める。文字通り「怪我の功名」で、延長前半ゴール前フリーで受けたジャストが足を滑らせたのは、日本にとって僥倖以外に何物でもなかった。

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 日本は準決勝を考えれば、90分間で決着をつけたい試合だった。当然ベンチも、そのために先手を打った方が、リスクも疲労も少なかったはずだ。フォーメーションを変更してニュージーランドは勢いと自信を増していた。流れを引き戻すには、無難な変更ではなく、もっと相手ゴール近くに危険な刃を突きつける必要があった。例えば林は単独で相手CBからボールを奪えていたし、GKも脅かしていた。Jリーグでそれを最も頻繁に成功し、ゴールに繋げているのは前田大然だし、三笘薫ももっと早く使っていれば守備網を切り裂く可能性も高まったはずだ。さらに言えば、後半の早いタイミングで流れを引き戻しリードしていれば、終了間際の冨安健洋の無用なファウル(警告)も防げたかもしれない。
 
 もちろん客観的に力負けする相手ではなかった。だからこそ迅速に番狂わせの芽を潰す策を講じるべきだった。PK戦というルーレットにも勝因と必然性はあったが、危険な賭けだったことは間違いない。

「油断するな、引き締めていけ」と叱咤するのは簡単だ。それをしっかりと表現できるような施策で後押しするのが、監督の役割である。おそらくスペイン戦は、十全の対策を施し素晴らしいパフォーマンスを見せてくれるに違いない。しかしさらにそれを結果に繋げるためには、先にゲームを動かし優位に進めていくための果敢な采配が要る。

文●加部 究(スポーツライター)

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